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 言い訳ならいくらでもあった。

 自分を正当化する言葉も。

 だからわらって居られたし、何も曝け出す必要なんて、なかったんだよ。

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 雨が降っていた。曇り空が闇へと変わるのは安心する。夕暮れは、まだ少し忌々しい。
 僕のすべてを奪って焼き尽くす炎。そんなものは存在しない。
 どこにも存在しなかった。

『何をそんなに頑張ってんだ』
『ずっと頑張ってちゃ、疲れるだろ』
『もう、止めちまえよ』

 言いっぱなしにされた言葉が、消化できずに溜まっていく。
 面と向かって口に出されなかった言葉。声になれなかった言葉たち。

「じゃあ、止めようかな」

 吐く息は白くて、唇が熱かった。
 辺りは既に闇。星を隠して広がった空。冷たく凍りついた雨。
 答えなんて期待していなかったのに、吐息さえ響くような沈黙が、何だか虚しく感じられる。

(……嘘だよ、ばーか)

 ずっと頑張ってた。の、だろうか。
 止めちまえだなんて、ずいぶんと無責任だね。
 僕が一番聞きたくない言葉を簡単に思い浮かべるおまえは、ひどい奴だね。
 それでも何度もおまえの心を探してしまう僕は、一体何なんだろう。
 時々、何もかも投げ出してしまいたくなる。
 そうすれば終わるような気がしてたけど。

「まだだ」

 もしもその時が来たら、今度こそすべてを焼き尽くす炎に飲まれるのもいい。
 そうすればきっと、夕暮れだって穏やかな気持ちで見ていられる。
 おまえの心を探す必要もなくなるし、言い訳もしなくていい。
 もうがんじがらめだ。判ってた。それでも。

「まだ止めるわけにはいかないんだよ」

 好きだった。打ちのめされれば、されるほど。
 汚い世界。虫唾が走る人の心。失うばかりのこの場所を、何度だって、生きてやる。
 せめて何かひとつくらい、思い通りになるまで、もう少し。

「足掻いたって、バチは当たらないだろ?」

 答えなんて、期待していなかった。

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 人間は小さいから、すぐに何かを否定する。

 誰もが気付けなくて、必死にもがいてる。

 だけど、この世に存在を赦されないものなんか、本当はひとつもないんだ。

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 雨粒の糸が切れたところを目で追う。
 一瞬の隙。それさえ完璧に計算しつくされていて、やり切れない気分になった。
 肌に纏わり付く湿った空気が冷たい。
 だから余計に温かいものを知る。
 何かを穿つようにさ迷う、心の先。
 オイラの頭ん中をつっついては、息を潜めてた。

(隠したいことなんて、何もないぞ)

 直接、訊いてくればいいのに。
 少し寂しくなった。
 何でいっつもひとりでやろうとすんだ。
 何でいっつもひとりで頑張ってんだ。
 何をそんなに頑張ってんだ。

(もう止めちまえ)

 判っている、こんなの勝手すぎる言い分だって。
 だけど、好きなんだろ?諦めきれないんだろ?
 何度やり直したって誰かに裁かれれば、また赦されたいと思うんだろ?
 だったらいっそ、止めちまえばいいのに。
 そうすればきっと、楽になれる。

『そう言う、おまえはどうなんだい』

 止められるのかい。
 そう、問われたような気がして振り返る。
 そんなことをしても、おまえに逢えるわけじゃなくても。
 どこか遠い昔、気の遠くなるような時間の片隅に、まだおまえがうずくまっているようで。

(あぁ、止めよう)

 捨てられない、信じたもの。
 捨ててしまった、信じられなかったもの。
 だけどふたつは、違うようでいて同じだった。
 同じように、信じたかったものだった。
 だからきっと、もう一度一からやり直せる。
 そうしたら、今度は赦されるから。
 オイラが居るから。

「二人で、止めるんよ」

 口に出して言えば、叶うような気がしていた。

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