コーデリア・グレイ

 

雨の中、一人の少女が小走りに走っていた。ランドセルをしょっていることから学校から帰るところなのだろう。彼女の名は灰原哀、赤みがかった茶色の髪をしている。

 

 

哀はふと足をとめた。

「あら、あなた・・・」

ここは公園の中、いつもなら子供たちが遊んでいるが、きょうは雨なので誰もいない。

いるのは小さな子猫。

灰色の毛並みをしたその猫は、ダンボールの中で雨に打たれている。

哀は迷わずその猫を抱きかかえた。震えている子猫。

「ここに置いとく訳にはいかないわよね・・・」

哀はその猫を連れて彼女の家―阿笠博士の家―へ帰っていった。

 

 

「ただいま・・・」

「おう、お帰り哀君・・・って、どうしたのじゃ?その猫は?」

「ごめんなさい・・この子、雨に打たれていたから・・・ほっとけなくて・・・」

「そうか・・」

「ごめんなさい・・・」

「なにも哀君が謝ることあるまい」

そして阿笠博士はもう一言付け加えた。

「哀君は優しい子じゃな・・・」

「やさしい・・・?わたしが・・・?」

戸惑う哀。こんなこと言われたことは初めてだった。

(あのきざな探偵さんにもそんなこといわれたことなかったのに・・)

と、戸惑っていた哀だったが、とりあえず現実のことを考えることにした。

「で、博士?この子をここで飼ってもいいかしら?もちろん世話はわたしがするわ」

「おお、いいとも。これでまた賑やかになるのお」

「あら、わたしなんかが来てからでも賑やかだったの?」

「もちろんじゃとも・・・」

「・・・・・ありがと・・・・」

消え入りそうな声でお礼を言う哀。

 

そこへ・・・

「博士ぇー、いるかぁ?」

と少年らしき声が聞こえてきた。

「おや、あの声は・・・」

「もう一人、賑やかなのが来たみたいね・・・」

 

声の主は江戸川コナンだった。

 

「何じゃ新一君?」

「いや、ちょっと、灰原のやつが雨ふってんのに公園の中にいたの見かけたから・・・

あいつまた暗いこと考えてんじゃねーかと思ってさ・・・」

「公園・・・?ああ、それならきっと・・・」

「悪かったわね、いつも暗いこと考えてて・・・」

子猫を抱いて出てきた哀。

「なんだよ。オメーはもうちょっと明るく振舞ったほうが・・・って、どうしたんだその猫?」

コナンが猫に気づいた。

博士が説明する

「ああ、あれは哀君が・・・」

「公園でみつけたのよ・・・それで・・・つれてきたの。」

「ふーん。じゃあ、オレがみたのはそんときか」

納得するコナン。

そして哀は、

(・・・・やっぱり言ってくれないのね・・・・)

(仕方ないか・・・毒薬を作って・・・彼の体を小さくした私だもの・・・)

(『やさしい』なんて、わたしに一番似合わない言葉ね・・・)

「みゃー」

そのとき子猫が鳴いた。

(あ、そうよね。わたしがこの子を連れてきたのは、別に工藤君に言葉かけてもらうためじゃないものね。)

 

「おい、灰原。灰原?」

「え、なに?」

ふと我に返ると、コナンは家の中に上がろうとしていた。

「何、ボーっと立ってるんだよ?」

「あ、工藤君、寄ってくのね。」

「ああ」

 

そして哀の部屋へやってきたコナン

「で、なんでオレが子猫の寝床を作んなきゃならねーんだ?」

「なによ。お菓子食べてそのまま帰るつもりだったの?」

「そーじゃなくて、手伝ってほしいならほしいといえよ。」

「せめてそのくらいのことは気づきなさいよ、名探偵さん。」

せめて、という言葉の中には哀の気持ちも入っているのだが、この鈍い名探偵がそこに気づくことはなかった・・・

 

「ところでよー?その猫、名前決めたのか?」

「まだよ」

「じゃ、オレが考えてやるよ。性別は?」

「雌だけど」

「ドイルは・・・?」

「それは犬の名前でしょ?」

「でも、オメーあの犬と仲良かったし・・・」

「かぶるのはイヤよ」

「うーん・・・そうだ!!」

「なに?」

「コーデリアは?コーデリア・グレイからとったんだけどな。」

「ふーん・・なかなかいいんじゃない。じゃお前は今からコーデリアね。」

哀が子猫―コーデリア―に向かって話し掛ける。

その顔は、とても可憐だったので、コナンは少し赤くなってしまった。

(やっぱ・・・こいつには、こういう顔しててもらいたいよな・・・)

とか、思ったりしてしまう。

 

しばらく、コーデリアと戯れたあと、コナンが訊いた。

「なあ、オメーなんでこいつを拾ってきたんだ?」

「雨に打たれてたから・・・あの時の・・・わたしみたいに・・・」

あの時というのが、哀が博士に拾われたときだというのが、コナンはすぐにわかった。

「あ・・わりい。なんか・・・思い出させちまったか?」

「・・・・」

 

しばし沈黙が続く・・・

 

(まいったな・・・いきなりしょげさせちまった・・・)

「あ、あのさ・・・」

何とか気分を盛り上げようとコナンが口を開いた。

 

おまえ

 

けっこう

 

やさしいんだな。

 

(えっ!?)

哀は驚いた。

意外にもこのきざな探偵は、自分のことを、やさしいと言ってくれたのだ。

「たとえ自分と同じような目にあってたからって、ちゃんと連れてきて介抱してやるなんて、やっぱお前は優しいよ。」

 

「・・・ありがとう・・・」

顔を赤らめながらそういった。

(うれしい・・工藤君にそういってもらえて・・・)

でも、こっちは心の中でいった。

かわりに、にっこりと微笑んで・・・

 

「そうそう・・そんな顔してろって、暗いこと考えてねーでさ。

オメーにはもっと明るく振舞っててほしーんだよ。

そのほうが・・・その・・・か、可愛い・・から・・・さ・・・」

やっぱり顔を赤らめてそういった。

 

そして哀は

「クスッ」

と、いたずらっぽく笑ったのだが、コナンは気づかなかった。

 

そして、

「ありがと、工藤君♪ ねぇ、ちょっと・・目・・閉じてくれない?」

 

(どきっ!!ま、まさか・・・!!)

と、コナンはさらに赤くなりながらも、言われたとおり目を閉じた。

「こ、これでいいか?」

「うん・・・」

恥ずかしそうに言う哀。

 

そして・・・

 

 

 

 

 

   ちゅっ

 

 

唇と唇が触れた・・・

 

(は、灰原・・・おまえ・・・)

 

 

コナンが目をあけると、そこには・・・・

 

 

コナンとキスするコーデリアと、そのコーデリアを抱いて、

いたずらっぽく笑っている哀がいた・・・

 

       おしまい

 

 

 

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あとがき

初めてのコナンの小説です。

だから、下手です。(いいわけ)

なんか哀ちゃんが動物といっしょにいるとこを書きたかったので作りました。

コナン君、キスシーンは生殺しでごめんね。