.............水のこころ
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「はあ〜。組織は潰れたっていうのによ。何で俺、まだコナンのままなんだ?解毒剤、まだできね〜のか?あ〜暇だぜ。」
コナンは探偵事務所のソファーに寝ころがりながらひとりごとを言っている。小五郎は近所の仲間とマージャンをやるため出かけているし、蘭はまだ学校にいる時間だ。
今日は珍しく少年探偵団のお誘いもなく、一人時間をもて余している。
組織は2ヶ月前に壊滅、なんとかAPTX4869のデーターも手に入れた。あとは灰原の作る解毒剤を待つだけだ。
「阿笠博士のところでものぞいてみるか」
そう呟いてコナンは探偵事務所に鍵をかけ出かけていった。
「灰原〜。解毒剤はできたか〜?」
バンッと地下の研究室のドアを開ける。
「うるさいわね。もっと静かに入ってこれないの?」
「わりぃな。こっちはもう限界でよ。まだできねーのか?」
こんなことを言っても哀にプレッシャーをかけるだけということは十分分かっている。でも、組織は崩壊したのに未だ元の姿に戻れなくて、そのもどかしくて切ない気持ちが渦をまいて、どうしても自分を止められないのだ。哀もそのことを十分分かっている。だから余計にプレッシャーがかかるのだが・・・・・・・。
「そう・・・ね。あと一週間あればできるかしら。元の姿に戻るためにはいろいろ準備が必要だから、丁度いい期間じゃない?。」
「何だよ?準備って?」
「馬鹿ね。工藤新一の姿に戻るには、江戸川君が探偵事務所から出なくてはいけないし、あの子達にお別れをしなくてはいけないでしょう?それとも、何も言わずにさよならする気?」
哀は綺麗なエメラルドグリーンの瞳を細め、じっとコナンを睨みながら言った。
「ははっ。んなわけねーだろっ。ちゃんと別れの挨拶くらいするさ。あいつらにも世話になったしな。
それにしても俺、やっと元の姿に戻れるんだなー。これでやっと蘭を・・・安心させてやれるぜ。
はやくあいつを本当の笑顔でいっぱいにさせてやりてぇな。」
ぴくっと哀が反応した。(本当に彼女のことで頭がいっぱいなのね。わかっていたことだけど、痛いわね・・・。)
「灰原?どうかしたか?」
「いいえ。何でもないわ。それより、もう用事は終わったのでしょう?もう帰ったら?私もはやく解毒剤を仕上げなくてはいけないし・・・・・・。」
哀はプイッと横を向いた。
「ああ。そうだな。お前もあんま無理すんなよ。」
コナンは哀の頭をぽんっと軽くたたいて出て行った。哀はぎゅっと服をつかんだ。
「はやく元に戻りたいくせに・・・・矛盾してるわよ」
誰にも届かないその呟きは哀しかいない地下室の中で響いていた。哀しい音色で・・・。
一週間後、再びコナンは阿笠邸にいる。
コナンとして蘭や小五郎、少年探偵団と別れた。みんな泣いて別れを惜しんでくれてコナンも目頭が熱くなる。コナンもそんなに悪くかったかもしれない。みんなといろんな所に行ったし、新一では体験できなかったこともいっぱいできた。
必ず事件はついてまわったが。
「はい。これ。」
コナンがコナンとしての思い出にひたっていると、突然哀に声をかけられた。
「うわっ驚かすなよ。」
「あなたがぼ〜っとしているのが悪いんでしょ。それより、はやく受け取りなさいよ。あなたが待ち焦がれていた解毒剤よ。」
手渡されたのは小さなカプセルの入ったビンと着替えだった。
「マジで?じゃあ早速飲んでくるよ。サンキュー!!」
そう言って哀から解毒剤と着替えを受け取ると地下室におりていった。
コナンの背中を哀は切なそうな瞳でみつめている。
解毒剤のできが心配というのもある。動物実験では完璧だったが、人間はどうだか分からない。何しろ新一と志保しかいないのだから。
けれど哀が先に飲まなかったのは決して新一を実験体にするためではない。
もしも哀が先に飲んで動けなくなるようなことがあれば解毒剤を作る人がいなくなってしまう。
死ぬことはないと確信してはいたけれど。
かすかに苦痛にたえる叫びがして、しばらくすると哀が渡した服に身をつつんだ新一が地下室からでてきた。すべてをみすかすような蒼い瞳をして・・・。
(よかった。成功みたいね。)
ほっと胸をなでおろす。
直接会うのは2回目ね。体つきは華奢だけれど肩幅はけっこう広くて男性という感じ、すみきった蒼色の瞳にもう影はない。
「どう?気分は?」
「ああ。めちゃめちゃイケテルってかんじだぜ。やっぱこの姿はいいよなー。世界が違うぜっ」
「そう。それで、ね。工藤君。私ちょっと話しておきたいことがあるんだけど。」
「悪い、灰原。俺、1分でも1秒でもはやくあいつのところに行ってやりたいんだ。話なら帰ってきてから聞いてやるからさ。ごめんな。」
そう言って新一は走っていってしまった。
「最後なんだから話くらい聞いてくれてもいいのにね・・・・。」
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