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長い夜

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 目が覚めたことが奇跡だったのだ。
 身体が動かない。
 手足は痺れているのだろうか。
 よく判らないが、とにかく眠い。
 凍り付いた瞼が重かった。

(きれいだ……)

 ただ静かで、ただ冷たい冬の夜。
 コンクリートに切り取られた空。
 澄んだ空気が、輝く星々を浮き上がらせている。
 風が、凍え強張った頬を撫でて過ぎていった。
 そこに、一人の影を置き去りにして。

「ちぇっ、弱っちいな」

 影が毒吐いた。
 誰だろう。
 幽霊かもしれない。
 だって、宙に浮いている。
 月のように白いマントの裾が、ゆらゆら揺れた。

「そんなところで寝てると、死ぬよ」

 うわぁ、怖ぇ。
 死ぬなんて、そんなあっさり。
 でも何か、どっかで聴いたことがある気がする。
 言ってることはおっかないけど、でも。
 何か、優しい声だ。

「……かくれんぼ……」
「喋れるのか。何だって?」
「おにが……探しに来るんよ……かくれんぼ、だから……静か……に……」
「へぇ、鬼ごっこか」

 口がうまく回らないのは、眠気のせいか、寒さのせいか。
 ふと、今一体何時なのだろうと思う。
 かくれんぼを始めたのは確か、夕方頃だった。
 珍しく誘われて。クラスの男子数人で。
 それでこの公園、遊具の土管の中に隠れたんだ。

「じゃあ、僕が鬼になってやるよ」

 でも誰も来なくて。
 誰も探しに来なくて。
 寒くて、いつの頃からか記憶がない。
 あぁそれに比べると今は。
 今は、何てあったかいんだろう。

「いーち、にーい、さーん……」

 ゆっくり、ゆっくり。
 数をかぞえる、声。
 白い息。
 ゆっくり、ゆっくり、あったまってゆく空気。
 だんだんと冴えていくのは、意識。

「……じゅうはち、じゅうく、にーじゅ」

 あったかい。
 冬なのに。夜なのに。
 突然現れた鬼が、こっちに近付く度に。
 全身の血が溶け出して、身体中を駆け巡る。
 かじかんでいた指先が、燃えるように熱くなる。

「もういいかい」
「……もーいいよ……」

 探しに来たのは、影か。
 幽霊か。
 それとも人間か。
 かくれんぼ。
 の、鬼。

「麻倉葉、見ぃつけた」

 目の前の自分と同じ顔が、にっと笑った。

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