s t o m a c h a c h e ! ! 

 暑さを倍増させながら、響き渡る蝉の声。
 夏も本番の、ある日のこと。
 タカオの家には、お馴染みのメンバーが集まっていた。

「こーゆうのは、タカオの役回りだと思ってたんだがなぁ……」

 広い木ノ宮家の一室に、敷布団が一つ。
 それを覗き込むようにして、レイが呟く。

「だからあれ程言ったじゃないですかぁ」

 レイとは反対側から覗き込む、呆れ顔のキョウジュ。

「あんなもんにムキになるから悪いんだ」

 少し離れて襖にもたれかかり、身も蓋も無い事を言うのは、例によってカイ。

「ホントになー、モノには限度ってものがあるよな、まったく」

 タカオのこの一言が決定打になったらしい。
 今まで黙って布団の中で小さくなっていたマックスが、跳び起きて喚きちらした。

「スイカの食べくらべしようって言い出したのはタカオじゃナイカ!!それにっ、勝っておいてナゼ平気な顔してるノ!?一体何十切れ食べたと思ってるネ!」
「オーウ、ワタシノ胃袋ナメテモラッチャ困リマース」
「何ネそれ!?ボクを馬鹿にシテマスカ!?」
「何だよマックスちゃ〜ん、ちょっとおまえの真似しただけじゃんか〜」
「似てないネ!似てないヨ!!全然まったく果てしなくッ!!!」
「マックス!安静にして下さいっ」

 慌ててキョウジュが止めに入ったのと、マックスが身体を折って呻いたのと、ほぼ同時。
 どうやら腹痛が再発したらしい。
 今の今までふざけていたタカオも、これには少し決まり悪そうにした。

「ウゥ……イタ、タタタ……」
「ほら言わんこっちゃない、大人しくしてなきゃダメですよ。まったく、スイカはお腹が冷えるから、食べ過ぎはいけないと忠告したのに」
「そんな事、今更言っても仕方ないさ。タカオの化け物並の胃袋に挑戦したのは間違いだったな、マックス」

 レイがなだめるが、腹痛で動けないマックスはまだ浮かない顔をしている。
 理由は、腹痛だけではなかった。

「じゃあ、私たちはもう時間ですから……プールに行ってきますね?」

 そう、今日はヒロミに誘われて、皆で市民プールに行く約束だったのである。
 お祭事や大勢で遊ぶなどといった事が大好きなマックスだ。楽しみにしていたものが駄目になってしまうのは、子供心には相当辛いに違いないが、お腹を壊している時にプールなんて到底行けるはずもない。
 ヒロミさんの誘いは怖くて断れませんから、とモゴモゴ言い訳をするキョウジュをちらりと見遣ると、拗ねたように布団に潜り込んでしまった。

「いいよ、ボクのことなんか放っといて。皆で楽しんできナヨ。ジャアネ」
「そんなぁ……マックス……」
「………………ぷっ」
「え?」
「くくく……っアハハハハ!Just kidding!ジョーダンね、ジョーダン!」

 呆気にとられるキョウジュを尻目に、布団の中から頭だけを出してけらけら笑うマックス。

「ホラ、ヒロミチャンだって待ってるヨ、皆で楽しんでくるネィ!ボクの事は気にしナイデ!」
「悪いな〜、マックス。おみやげ買ってくるからな、駅前のコンビニで」
「タカオは気にすべきです!元はといえばタカオが悪いんですから!」
「カタイ事言うなってキョウジュ、ちゃんとこーやって謝ってるだろー?」
「いつ謝ったんだ?」
「ボク、謝ってもらった覚えナイネ」
「レイ〜〜、マックス〜〜……悪かったよゴメンって……勘弁してくれよぉ〜〜」

 いつものように騒ぎ初める4人。
 終始黙ってその様子を見ているは、カイ。
 マックスは夏の向日葵みたいなニコニコ顔で、皆を送り出した。




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「ハァ―――……」

 部屋に広がる大きな溜め息。
 強がって明るく振舞っていても、やっぱり一人になると気持ちが沈む。
 がらんとした部屋が、いっそう寂しかった。

(皆行っちゃったナァ……ボク、ひとりぼっちネ……)

 寝返りをうって、枕に顔をうずめる。
 なんだか泣きそうだ。
 こんなことぐらいでママに笑われる、と自分を励ましてみるけれど、何だか余計悲しくなってしまった。

「……オナカ痛い……」

 病気の時は気が弱るというが、まさにそれだろう。
 マックスは知らず知らずのうちに、母親のことを思い出していた。

(そういえば昔、ボクが風邪引いたトキ、ママはずっと傍についててくれたっけ……)

 あの時はたまたまダディが居なくって、ママは慣れないオカユを作ってボクに食べさせてくれた……。
 濡れタオルを絞ったママの冷たい手……とっても気持ちヨカッタネ……。
 『大丈夫よ、マックス……ママはここに居るわ……安心して眠りなさい……』
 ママの……優しい声……。
 『良かったわねマックス……お熱、下がったわよ……』
 あったかいオカユの、いい匂い……。

(ママの作る……オカユの……)

 いつの間にか、うとうとしていたらしい。
 マックスは、何かに気付いて目を開けた。
 身体を起こして、「それ」を探る。
 この匂いは……。

「腹いたは治ったのか」
「……!Oh, boy……!カイじゃないデスカ!」

 開いた襖の向こう側。
 そこには皆と出かけたはずのカイが立っていた。
 その手に持っているのは、

「オカユ……」
「木ノ宮のじいさんに、後で礼を言っておくんだな」

 ほかほか湯気をたてている、卵粥。
 そのいい匂いに、一瞬腹痛も忘れてマックスはカイに飛び付いた。

「……Wow!!Thank you, カァイ!Thank you ねィ!」
「止めろ火傷するぞ!礼はじいさんに言えと言ってるだろうが」
「ハイッ」

 さっきまでの暗い気持ちはどこへやら、百万ドルの笑顔で答えるマックス。
 嬉しかった。タカオの祖父の心遣いも、あったかい卵粥も、カイが自分の為に一人残ってくれた事も。

「でも、sorry ネ……。ボクの為に、カイ、皆と遊びに行かなかったんデショ?」
「勘違いするな。大勢でツルむのは好かんだけだ」
「カイ、優しいネ。ボク、カイのそーゆうトコ好きだヨ。何か、ママみたいネ!」
「………………」

 それは褒め言葉なのか?
 口には出さねど、内心少々複雑なカイ。
 何故よりによって親父じゃなく母親なんだ、と思いつつ、まぁ嫌な気分ではないと、カイはいつもの皮肉な笑みを浮かべていた。

「……ところでカイ、フーフーして食べさせてくれナイノ?」
「誰がするかボケ」

END

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……なんっっじゃこりゃ――――――!!!(叫)
カイー!(笑)キャラ変わりすぎだYO☆
おかゆを作ったのはホントにじっちゃんなのかとか。
実はカイなんじゃないのかとか。
これってカイマなのかとか。
それとも単に世話焼きカイ様なだけなのかとか。
突っ込むトコ満載でオトクだネ!
お好きなよーに、ご解釈願います。
私的には、世話焼きカイ様と腹いたマックスが書きたかっただけでヤンス。
もともと、まっくしゅ単体で好きなのですよ。誰かとのカプじゃなく。
マザコンはおとなしく母親といちゃこいておれ、という話で。
ていうかむしろ、私といちゃこいてくれ、という話で。
マックスへの歪んだ愛だけで書き上げました。
その証拠に、タイトルにやる気のなさがにじみ出ています。
「ハライタ」っておまえ……(自分だ自分)