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    ....eur de pe.. qu'il ne se sa...   
    Avo..r par...s envie de cr..er sauve        
    ..ui peut sa..ir jusqu'au fo..d des chos... 
    Est m..heur..x....
    Fuir le bo..he..r de ..eur qu'il ne se sa..ve   
    ..e di..e qu'..l y a over the rainbow       
    Touj..rs plu.. haut le s...il above       
    R..dieux..... 
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 体育館に入ろうとして、コナンはふと足を止めた。
 微かに歌声が聞こえる。

「灰原?」

 そっと、扉を開けて中を覗いたが、誰も居ない。
 夕陽が、体育館内を赤く染めているだけだ。

(気のせい……だったのか……?)

 それでも、何だか納得いかずに、コナンは中央まで歩み行った。

「……なに?」

 突然頭上から降ってきた、聞きなれた声。
 見上げると、2階の手摺に跨る格好で、哀が座っていた。

「……!バーロォ、捜してたんじゃねーか!先に帰ったかと思ったけど、靴はあるし。具合悪いくせにウロチョロしやがって…」
「あら、それはごめんなさい。よくここだと判ったわね」

 探偵さんはなんでもお見通しなのね、と投げ遣りな口調で哀が言った。
 夕陽の光が躰に熱い。

「ちげーよ、歌声がしたから……」

    Avoir parfois envie de crier sauve       
    Qui peut savoir jusqu'au fond des choses 
    Est malheureux 
           
 さっき歌っていたフレーズを、哀は繰り返した。
 よく透る、綺麗な声。

「灰原……」
「あたしって、不幸かしら」

 ふと、哀がつぶやいた。

「あたしはいつだってひとりぼっちで、あなたと居たってひとり。死ぬ時だってひとりよ」

 夕陽の逆光で、哀の姿がよく見えない。
 彼女の小さな躰はそのまま、その赤に溶けて消えてしまいそうだ。

「まだ……死のうとか考えてんのか……?」

 コナンは恐る恐る、言った。
 クスッと、ほんの微かに笑い声が聞こえる。しかし、その表情は見えない。

「それは止めたわ……あなた、死なせてくれそうにないもの」
「じゃあ、組織に殺されるとかか?だったらそれは無ぇよ!」
「………………」

 沈黙が、どうしてそんな事を言うのかと問い掛けている。

「おまえはオレが守るし、たとえ死ぬとしたって、ふたり一緒だろ」

 赤い日差しが眩しくて、コナンは眼を細めた。

「ひとりじゃない……」
「それはダメ」

 哀が、静かに、しかし強い口調でコナンを制す。

「あなたを……死なせはしない。守るならあたしが、あなたを守るわ」

 そう言って哀は、顔をコナンから背けた。
 そして真っ直ぐ前を見て、今度は優しく喋り始めた。

「ねぇ、考えてもみて?工藤君……」

 まるで母親が子供に言うように。

「組織を潰して、元通りの身体、元通りの生活に戻ろうとしたところで、あたしの居場所はもう、無いの」

 そう言われると、コナンはどう返すのが最善なのか判らなくなる。

「何……言ってんだよ……此処が、あるだろ……」
「あなた、あたしに此処に居ろって言うの」

 哀の眼が、厳しくなる。
 光で顔は見えなくとも、その言い方でコナンにもそれが伝わった。
 母親ではなく女のそれ。

「何もかも元に戻ってハッピーエンド、幸せなあなた達を見て居ろって?」
「灰原……おまえ……」
「悪いけど、あたし、そこまで強くないのよ」
「灰原……!」
「あたしは全てを後悔するわ」

 コナンの呼びかけを無視して、哀は早口に言う。

「あなたに出逢った事も、此処へ来た事も、組織を裏切った事も、薬を作った事も、組織に入った事も、生きている事も、産まれた事も、全てを後悔してる」

 そこまで言うと、哀は息を付いた。
 頬が、夕陽に光ったように見えたのは、気のせいだろうか……。

「灰原、降りて来い……」
「………………」
「そっから、飛び降りて来い」
「……え?」
「オレが受けとめてやっから」

 念を押すように、繰り返す。

「受けとめてやっから!」
「ダメ……」

 コナンを見つめる、哀の真っ直ぐな瞳。
 ふと、夕陽が雲に隠れた。

「灰原!」
「ダメよ……あなたは……」
「来いよ!!」

 誰も居ない体育館内に、コナンの必死の叫びだけが響き渡っている。

「なんで逃げんだよ!なんで何時も自分からひとりになろうとすんだ!なんでなんだよ!?いつも何も言わないで……嬉しい時は笑えよ!寂しいなら寂しいって言えよ!言って良いんだよ!!」

 いつも、ひとりぼっちだった少女。冷静で、頭は良いくせに、不器用で。
 意地っ張りで、誤解されやすい、優しい少女。
 自分を守ろうと、自分から周りを守ろうと、足掻いていた。
 そして結局、ひとりだった少女。

「受けとめてやるよ!だからもう、そんなかなしい歌うたうな!来いよ灰原ぁ!!」

 哀の身体が宙に舞った。




「――っつ〜〜……」

 コナンが呻きながら起き上がる。
 腕には、しっかりと哀の身体を抱きとめて。

「……んな?ちゃんと受けとめるって言ったろ?」

 言って、少し照れくさそうに微笑ったが、次に、

「でも……やっぱ痛ぇな……ッテテ……」

 と顔をしかめたので、哀は声をあげて笑った。
 それを見て、コナンももう一度笑う。
 随分、長い間笑っていなかった……哀はそう感じた。
 夕陽が何時の間にかまた、雲の波間から差し込んでいた。

「何もかも……今を捻じ曲げてまで元通りにしなくちゃいけねーワケじゃねぇよ……」

 コナンは、哀に、そして自分に言い聞かせるようにゆっくり言った。

「時は流れてる……何かが変わったっていいんだ。それは止められないことで……決して間違いなんかじゃないから……」

 暖かい腕の中で哀は、うん、とつぶやいた。

    Fuir le bonheur de peur qu'il ne se sauve   
   Se dire qu'il y a over the rainbow       
   Toujours plus haut le soleil above       
   Radieux                     
                         
 コナンは、哀の頬に弧を描いた涙を、親指で拭う。
 哀はボンヤリしながら、さっきのフレーズの続きを思い出していた。
 それから、虹の向こうに太陽が高く輝いているなんて思うのは 、そう甘い考え でもないのかもしれない、と想ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Croire aux cieux croire dieux            天を信じ、神を信じ
_
Meme quand tout nous semble odieux     すべてが憎らしく見えても
            、     、
Que notre coeur est mis a sang et a feu   心臓の血が騒いでも

Fuir le bonheur de peur qu'il ne se sauve    彼が救われるかもしれないと、心配するのは甘い考え

Avoir parfois envie de crier sauve           助けて、と何度も叫びたくても

Qui peut savoir jusqu'au fond des choses       本当のことなんて、誰がわかる?

Est malheureux                      それは不幸

Fuir le bonheur de peur qu'il ne se sauve   彼が救われるかもしれないとか

Se dire qu'il y a over the rainbow          虹の向こうに太陽が高く

Toujours plus haut le soleil above          輝いているなんて思うのは

Radieux                            甘い考え

(ジェーン・バーキン)

 

赤い月

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