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 午後からは授業に出た哀だったが、まったく上の空であった。
 いつもなら、適当にノートをとった後は、小説でも隠れ読むか、それでなければ寝ているか。
 けれど今日は、それすらしようと思わない。
 気怠いような、息苦しいような、厭な感じが躰中を這いずり回っている。
 哀は朦朧としながら、途切れ途切れに考え始めていた。

 

ひとりで居たかった

守りたいものなんて

要らなかった

どうせ失ってしまうのなら

辛いのはもう沢山

疵付くのはもう厭

疵付けるのも……

結局ひとりになるのなら

誰かと居るシアワセなんて

要らなかった

感じたくなかった

知りたくなかった

怖かった……

何時もひとりで怖かった

私さえ居なければ

膝を抱えて震えてみたって

差し伸べられる手なんて

永遠に無い筈だったのに

だって私はもう、救われない

私はヒトゴロシだもの

此れまでも、此れからも

私が居るだけ

それだけで、誰かが死ぬ

みんなが死ぬんだわ……

夢……あの夢……

あの夢は………



 チャイムの音が響いた。

「はい、では日直さん、終わりの会を……」

 一気に教室内が騒がしくなる。
 そんな中、哀はひとり、固まったように身動きせずに居た。

「……?おい、灰原、どーした?」

 コナンが気付いて、呼びかける。

「……あたし……」
「どーしたんだよ、また気分悪くなったのかよ?」

 心配そうなコナンを他所に、哀はどこか、机の一点を見つめていた。

「あの夢……」

 つぶやいて哀は、立ち上がった。

「お、おい……」
「……保健室、行ってくるから……」

 そう言い残して、哀は消えた。

 

赤い月