. 一瞬の出来事。 少年は小さく呻いて、壁にもたれるように崩れ落ちた。 連れていた妖精が、心配そうに彼の周りを飛び回っている。 (咄嗟に剣で受けやがったな……) オレは、力無く垂れた彼の手の中の、白く輝く剣を見遣った。 とどめを刺すなら、今だ。 けれど、オレはその場に突っ立ったまま、動くことができなかった。 「どうした?」 カゲが囁く。 「そいつが居る限り、おまえはずっと、このままだぜ。この寒い部屋にひとり……」 言われている間も、オレの意識はてんで別の所にあった。 オレは考えていたのだ。 『ここにはおまえ以外、誰も居ないぜ』 確かにそう言った。 すぐそこにカゲの姿が見えていたはずなのに。 彼には見えなかった。 此処には、オレしか居ないと。 オレはいつから此処に居たのだろう。 こんな寒いところに。 いつまで居ればいいのだろう。 決して開かれないと思っていた、扉。 ヒカリとは、一体何なのか。 本当は、知っているのではないか。 カゲに似た、少年。 ふと、氷った床に映る自分の姿が目に入った。 オマエハソウヤッテ、目ヲ瞑ッテイルダケサ。 その通りだ。 似ているのは、カゲではない。 少年に似ているのは、このオレだ。 カゲ、なんて人物は居ない。 存在しない。 この部屋には、最初から誰も居なかった。 オレ以外の、誰も。 いつからこんなことを続けていたのだろう。 暗いこの部屋で、ひとり。 カゲはオレだったのだ。 オレの意識が作り出した。 影の存在であるオレが、光を羨むあまりに。 恐ろしい程の孤独の海の中で。 オレから生まれた、幻。 本当は待っていた。 扉が開かれること。 判っていたのだ。 光に成り代わるなんてことは、不可能だということを。 影は、どこまでいっても影の存在。 光なくしては、生きることすら許されない。 光を倒せば、オレは消える。 ただ、それだけ。 何故なら、光と影は、常に同時に在らねばならないものなのだから。 ただ、それだけのことだったのだ。 ずっと忘れていた。 思い出せずにいた。 気付かないふりをしていた。 『俺とおまえは影だ』 オレは、影だったんだ。 我に返った時、もう、カゲは居なかった。 姿は愚か、声すら聞こえなかった。 オレはすべてを知った。 ずっと考えていたことの答え、すべてを。 もう、知るべきことは、何も無かった。 「光……」 オレは無意識の内に呟いて、未だ気を失ったままの少年に歩み寄った。 「どうして……オレだけが……」 例えようのない感情が、込み上げてくる。 「オレは、あんたの影、なのに」 言葉と一緒に、涙がこぼれた。 「なのに、なんでオレだけ、ひとりで居なきゃなんなかったんだよ……こんな……場所で……」 ずっと、ひとりで。 誰も居ない。 自ら作り出した、幻だけ。 誰か。 誰でもいい、扉を開いて。 オレを助けて。 ここから出して。 どんなかたちでもいいから。 もう、ひとりは嫌だ。 だから。 「あんたを殺せば……」 光が消えれば、影も消える。 此処から、出られるのだ。 やっと。 オレは、倒れている少年目掛けて、剣を振り下ろした。 「……!!?」 鋭い金属音。 それと共に、オレの剣が跳ね返される。 いつ意識を取り戻したのか、気を失っているとばかり思っていた少年が、盾を構えていた。 「……ごめん、な」 彼が口を開く。 小さく、けれどはっきりとした声だった。 「オレは、ここでやられるわけにはいかねーんだ」 まだ、しなきゃならないことがあるから。 逢いたい人が……オレを待ってる人がいるから。 そう言って、彼は果敢無げに微笑んだ。 「でも、おまえを残しては行かない」 差し延べられる、手。 「もう、ひとりにはしないから」 ヒカリ。 オレの光。 ずっと待ってた。 長い間、ずっと。 「一緒に行こう」 外へ。 この部屋の、外へ。 オレも行けるのだろうか。 いつか、夢に見た場所。 「……駄目だ」 言葉が口をついて出た。 駄目だ。 「オレは行けない」 「……!?何故……」 「もう一度、剣を抜いてくれ」 困惑したような彼の顔。 それを出来るだけ見ないようにして、オレは剣を持ち直した。 「来ないなら、こっちから行くぜ……!」 オレは行けない。 もう、判っているのだ。 オレが此処から出られるのは、この手で光を倒した時。 或いは、オレが光にやられた時。 どちらにせよ、ここから、この世界から消える以外に、此処から出る術など無いのだ。 オレの黒い剣が、少年の頬をかすめる。 仕方なく、自分も剣を構える彼。 その瞬間、オレは、その剣先に向かって、飛び込んだ。 「!!!」 ずぶ、と厭な音が、鼓膜全体に広がった気がした。 それと同時に、腹部に鈍い痛みが走る。 「おまえ……!!」 彼が、慌てて剣を引き抜いた。 視界の端の鮮血。 これは、オレの血なのか。 オレは自分の身体を支えられず、その場に倒れ込んだ。 「しっかりしろ!何で……こんな!!」 「い……んだ、もう……」 覗き込む、少年の顔。 泣きそうだ、と思った。 「何……で、そんな顔……オ、オレは……あんたの、敵、なんだぜ……」 「そんなこと……!」 「い、行けよ……」 意識が朦朧としてくる。 目の前が霞んだ。 死ぬんだ、と冷めた心で思った。 怖くは、なかった。 「こ、こんなことぐらいじゃ、オレは死なねぇ……先……急ぐんだろ……は、早く……」 「でも!」 「……リンク!」 突然、妖精が叫んだ。戸惑う彼を諭すように。 リンク。 オレは初めて彼の名を知った。 そしてそれは、同時にオレの名前でもあった。 妖精の声に背を押され、こちらを振り返りながらも彼はしぶしぶ出口へと歩み出す。 その背中へ、オレは最後の声を絞り出して、言った。 「また、逢えるといいな」 彼が立ち止まる。 振り向いた彼の頬は、涙に濡れていた。 けれど、それでも、彼は微笑っていた。 「いつだって逢える」 綺麗な、笑顔だった。 「オレ達は、二人でひとつなんだ」 少年が行って、オレはまたひとりになった。 けれど、もう孤独だとは思わなかった。 オレは此処で死ぬだろう。 それが何だって言うのだ。 この身体が消えても、オレの魂は消えない。 あいつが、あの少年が居る限り、オレはあいつと共に生き続ける。 オレは死ぬ時でさえ、ひとりではないのだ。 脇腹の痛みも、もう感じなくなってきている。 気が付くと、傍らに誰かが立っていた。 「やっと、判ったんだな」 「……カゲ」 「おまえはいつも、目を瞑ってた」 「ああ……でも、もう止めたんだ」 カゲは寂しそうに微笑んだだけだった。 「影だとか光だとか、関係無い。オレにだって、赤い血が流れてる」 言い終わった時には、もうカゲの姿は無かった。 多分、もう二度と逢うことはないだろう。 リンク。 あんたに会えて、良かったよ。 オレは、生まれて初めて、幸福な気持ちで目を閉じた。 . |
........................................................................................................イイワケ
はい、みなみです。
ダークリンク一人称のお話でした。
まぁ、判りやすい話だったかと。
ところであたし、ナビィ×リンク大好きです。
リンク×ゼルダよりも好きかも。しれないね。
マロンは?ルトは?サリアはー?
って書くと、リンクってモテモテですよね。モテ男くん。
もっと書いちゃうか。
ロマニーは?クリミアは?アンジュは?カーフェイは?シークは?ガノンは?
でも本人きっと、女の子より自分のことで一杯一杯ですよ。