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Home, Sweet Home −後編−

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岩屋は、特別な場所だった。
 あたしが天地を愛してるってことを、はっきりと感じられる場所。
 全てが天地に繋がる場所。
 なのに、今は違う。その後先を考えてしまう。
 そしてそれはいつだって、明け方の森のように霧掛かって見えないのだ。

(あたし、どこに居るんだろ……)

 気が付いた時にはあたしという物質はこの世界に放り出されてて、何だかよく判らないけどそれは生きているということらしかった。
 命じられるままに生きて、それ自体は別に苦痛ではなかったけれど、裏を返せばそこには苦痛さえもなかったということだ。
 違背に対する罰ですら、その痛みも傷も一時的なものでしかなかった。あたしには何にもない。
 何にもないあたしの存在を、唯一確かにしてくれるのは、破壊だけ。
 あたしの加えた力で、何かが壊れる。あたしが、此処に存在している証拠。
 だから、破壊魔と呼ばれたって、ちっとも構わない。それがあたし。
 身体にも心にも、何にも溜まらない。
 空洞のような肢体。空っぽの自分。
 そんなあたしだったけど、この岩屋に封印されてから、少しずつ何かが変わっていった。
 天地と、天地を取り巻く人々。そのすべてがあったかくて、満ち足りていて。
 その大いなる輪の中に、何だかあたしも組み込まれているような気がした。
 ううん、そうなりたかったのだ。あたしだって、あたしだっていつか。
 好きな男に愛されて、そいつと結婚して、そいつとの子供が産まれて……。
 だけどそれって、どんな感じなんだろう。
 何度も想像しようとしたけど、どうしても辿り着けない。
 そりゃそうだ。あたしにはそんな経験、ないんだから。
 それどころか、あたし自身そうやって産まれたんでもない。
 普通子供ってもんは、男と女が愛し合ったから産まれるもんだ。そして皆から愛されて育っていく。天地がそうだったように。
 でも、あたしは違う。そうじゃない。そうじゃないあたしが、それを理解しようなんてこと自体、ハナから無理なのかもしれない。
 きっと幻想なんだ。もう破壊魔じゃないあたしなんか、きっと本当はこの世界のどこにも居ない。居なくていい。
 なのに。こんな、なくてもいいようなあたしなのに、どうしてそれでも存在してしまうんだ。
 鷲羽はどうしてあたしを造ったんだろう。
 あたしを娘だと言うけれど、それは誰を愛したからだ?

「なぁ、鷲羽?」

 問いかけは、口に出して言った。

「魎呼……」

 鷲羽はその問いには答えず、あたしの後ろ数メートルのところで呟いた。
 さっきまでアストラルリンクは遮断していたから、ここに来たのは偶然だろう。
 それとも、奴にとってはあたしの行動パターンなんて、手に取るより簡単に判るのだろうか。
 何たって母親だもんな。まったくふざけた話だ。

「あのね、魎呼」
「止めろ!聞きたくない!」

 また名前を呼ばれて、あたしは耳を塞ぐ。
 そういえばさっき姿を消す時にも、最後に聴いたのはあいつの声。
 悲鳴に近かったその声も、あたしの名を紡いでいた。

「もうたくさんだ……。あたしは、あたしは……!」

 気付いてはいたんだ。
 こいつが『魎呼』という言葉を口にする度、そこには何だかとても、特別な旋律があふれてるってことに。
 だけど、そんなの認めたくなくて、あたしの中に入らないでほしくて、逃げ続けたあたしは、それこそ本当に子供だった。
 さっきだって、あんな風にカッとなることなんてなかったのに。苛々していたところに急に話を振られて、ついテレポートしてしまった。
 だって仕方ないじゃないか。ずっと一人で生きてきたんだ。
 空虚な心を破壊で満たそうとしていた時も、永遠のような時間が終わると思った瞬間も。
 それでもまだ闇からは抜け出せなくて、凍えていた時も。
 いつしか天地と廻り逢って、たくさんの温かい光を知った時も。
 全部、一人で迎えてきた。あたしがたった一人で足掻いて、もがいて、見つけてきたものなんだ。奪われてたまるかよ。
 それなのに、どんなに否定しても、今も鷲羽はあたしの目の前で母親のような顔をしていた。

「あの手紙……」
「……?」
「あれをくれたのはね、あたしの夫だった人よ」

 あたしが、面白半分に引っ張り出したラブレター。誰から貰ったものだろうと、あたしにはどうでもいいはずだった。
 ただ、からかうネタになればそれでよかったんだ。まさかこいつがあんな顔をするなんて、思わないじゃねぇか。
 一人の女としての鷲羽。そしてその延長線上にある、母親としての鷲羽。それが見えてしまったから、戸惑ったのだ。
 そんなあたしをなるべく刺激しないためだろうか。鷲羽は、明るく話し始めた。

「あの頃あたしはアカデミーの学生でね。カリキュラムの一環で、自分より下のクラスの講師をしてたの。彼は、あたしの生徒だった」
「先生と……生徒ぉ?」
「うふっ、なかなか魅惑的なシチュエーションでしょっ」
「うへぇ。年下のいたいけな教え子を手込めにするたぁ、とんでもねー教師だな」
「あー違う違う。彼はあたしの8つ上だったわよ。でもまー確かに、子供っぽいとこもある人だったな。ドジだったし」

 最初の授業で寝てた奴だったんで名前を覚えてたんだとか、結界を易々とくぐり抜けて鷲羽のところまで来てしまうんだとか。
 そいつが好きなのは自分じゃなく自分の友達だと勘違いしたこととか、二人とも本が好きでもっぱら図書館でデートしてたこととか……。
 ってこれじゃただのノロケだっつの。
 そんな、懐かしい思い出話。他愛もないことのように、さらり軽やかに流れていく言葉たち。
 さっきはあたしに気を遣っているのかと思ったが、夫だというそいつの人となりを話すその様は、本当に楽しそうで少女みたいだ。
 少女みたいだけど、それだけじゃない。そんな淡く浮き足立ったものじゃなくて、とても深く根付いた感情。そんな気がした。
 あたしだって、天地を好きな気持ちは誰にも負けない。何があったって変わらないんだって、胸を張って言いたい。
 でも、それは本当にそうなんだろうか。言うだけなら簡単なのに、考えると判らなくなってしまう。
 一体あたしはどんな顔をして立っているんだろう。

「一緒になるのは簡単じゃなかったけど、何とか彼の家の許しを貰ってね。子供も産まれて……息子よ。幸せだった。この先にどんな困難が待ち受けていたって、乗り越えていけるって本気で思えたの」

 そう言う鷲羽の瞳には、あの温かさが満ちていて、あたしは思わず視線を逸らした。
 いつだってそうだ。目の前の部屋からはあったかい光が絶えずこぼれてくるのに、あたしはそれを外から眺めているだけ。
 どうすれば中に入れるのだろう。手を伸ばせば届く距離にあるのに。
 今もほら、かたく閉ざされた窓が、邪魔をする。

「……あたしは……代わりなのか?」
「え?」
「あたしはそいつらの、代用品かよ?」

 こんなこと、本当は言うべきじゃない。それは判っていた。
 言ったってどうにもならないし、きっとまたこいつを疵付けるだけだろう。
 判っているのに、堪えきれない。気持ちのコントロールが利かない。
 聞き分けのないガキみたいだ。だから、家の外に放り出されたのかもしれない。
 鷲羽はしばらく黙ってあたしを見ていたが、目を閉じて、もう一度あたしを見つめた。
 これから発する言葉を、決意したように。

「……自分の遺伝子から生命体を造ったのは、あんたが最初じゃない」

 それは、突然の告白だった。

「え……!?」
「あんたより前にいたのよ、二人。理由は、研究のため」
「………………」
「軽蔑されて当然だね。でもあたしは科学者として……ううん、あたしという人間のために、知らなければならないことがあった。だからあの子達を作ったの……少なくとも、当時のあたしはそうだったわ」

 落ち着いた口調で話す鷲羽は、さっきまでとは違って、まるで知らない人の話をしているようだ。
 できれば思い出さないまま、誰か他の人の話にしてしまいたい。そういうのは何だか、判る気がする。
 でも、どんなに苦しんだって、自分の過ちは他人のものになってはくれない。
 そして、そのことを口に出して誰かに語らなければならないとすれば、それはとても辛いことだろう。

「だけど、結局その二人も、あたしは失ってしまった」

 何故、とは訊けなくて、立ちすくむ。声が出ない。

「ホント馬鹿よ……研究のためだなんてさ。建前がなくちゃ子供を持てないなんて、そんなおかしな話があると思う?でも、気付いた時には遅かったんだ」

 明白なのは、鷲羽がその二人をただの研究の道具だとは思っていなかったこと。
 それを知って、あたしの身体は金縛りにあったように動けなくなっていた。

「魎呼。どうして自分を造ったんだって、そう言ったね」

 正しくは、言ってない。けど、そんなことは今はどうでもいい。
 自分という存在に、いつも必死になって意味を付けてきた。たった一人、自分だけで築き上げたあたしという個体。
 でも、独りでに生まれて独りでに育つ命なんて、あるわけがない。
 だから、最初から無理があった。気付かないふりをしていただけだった。

「あたしには、かけがえのないものがあった。何があっても共に居たい、あたしのすべてを掛けても守りたいと思う、そんな存在が……」

 愛する人がいて、守るべきものがあって。なのに、それを手離してしまう愚かさ。
 迷って、諦めて、言い聞かせて。そんな日々だってあるだろう。平気を装って過ちを繰り返すことも。
 そんな自分に気付きながら、人は生きていく。その度に切なくても、失ってばかりのような気がしても。
 手に入れられるものだって、きっとある。
 それを物語るかのように、優しい熱を帯びた鷲羽の眼。
 体温にも似たそのぬくもりに、包まれていく。

「その気持ちを、もう二度と見失いたくないの」

 それは、鷲羽の答えだった。
 目を瞑っていたのは、あたし。耳を塞いで、何も見ないで、窓の鍵が開いていることも知ろうとしなかったのは、あたしだ。
 誰かがあたしを部屋へ迎え入れようとする度に、意地を張って動かなかった。
 そのくせに、心の中では、そのあったかい輪の中に入りたくて仕方なかったのだ。
 初めて逢ったあの時から差し伸べられていた手が、窓を開けていつか自分を引っ張り込んでくれる。
 どんなに逃げたって、追いかけて捕まえてくれる。寒い窓の外で、いつの頃からか、そんなことを望んでいた。

「確かに、お前の言う通り。あたしは天地殿が好きよ。多分……そう、お前と同じくらいにね」
「あたしと……同じ……」
「封印されてからずっと、あたしの精神はお前の精神と同化していたわ」
「あたしの心を……覗いてたってことだろ」
「いいえ。そうじゃない」
「?」
「もはや鷲羽としての自我はそこにはなかった。あの時、あたしは完全に魎呼だったの。だから、天地殿への想いも同じ」

 だけど、と鷲羽は続ける。

「同じ想いでも、感じ方は人によってまったく違う。あたしは、天地殿から愛されたいとは……思わない」

 そりゃ嫌われたくはないけどぉ、なんて冗談めかして笑う鷲羽。でもあたしは笑えなかった。
 想いが同じ、だなんて、本当なんだろうか。
 だって、天地から愛されなくてもいいなんて、そんな気持ち、あたしには判らない。
 判らないけど、それが強がりとか上辺だけの言葉じゃないっていうのは判る。
 もしかしたらそれこそが、真実の愛ってやつなのかもしれない。
 岩屋から、ずっと見ていた。欲しくてたまらなかった、あったかい光。
 自分の意思もないままに破壊を繰り返してきたあたしには、到底持ち得なかったもの。

「お前にはまだ納得できない話かもしれないわね。でも……」

 鷲羽の語り口は、そんなあたしを見抜いているかのようで。
 もやもやと定まらないあたしの考えを、肯定するでもなく否定するでもなく。
 それはまるで、あたしはあたしのままでいいのだと、そう言うように。

「あたしが今、一番愛しているのは、お前よ。魎呼。そしてあたし、あんたには愛されたいと願ってる」

 その言葉の本当の意味に、あたしはきっと気付けていないんだろう。
 ただ、それを聞いた時、無性に何かを恋しいと想った。

「ママだなんて言っときながら、無償の愛じゃなくて、ごめんね」

 そう言って微笑む鷲羽は、何だか少し寂しそうに見えた。
 でも、それでも。
 鷲羽は、あたしが手に入れたいものを全部持ってる。
 あたしには一つもないのに、鷲羽は全部。
 敵うはずがないんだ。あたしを造ったからとか、そんなことの前に。
 あたしは鷲羽には敵わない。
 そう思ったら、悔しくて、情けなくて。

「……一つ、訊いていいか」

 どうしようもなくなって、あたしは浮んだ疑問をそのまま口にした。

「いいわよ」
「お前って、いつ子供産んだんだ?」
「随分と唐突ねぇ」
「いいから教えろよ」
「えーと、ちょうど二十歳の時ね」
「はっ!はたち!?」
「何よう、そんな驚くことじゃないでしょ〜」

 頭がクラクラする。自分で訊いておいて何だが、聞くんじゃなかった。
 まさかそんな小娘の時に。そういやあん時も、2万年近く前のことだとは言っていた。でも、それにしたって……。

「じゃ、結婚したのは……」
「19よ」

 駄目だ。
 やっぱり、あたしに勝ち目なんてない。
 そもそも2万歳って時点で、あたしの4倍は生きてる。封印されてた時間を差し引いたって、3倍だ。
 その上、結婚だの出産だのは二十歳そこらで経験済。しかも大恋愛の末のこと。
 んでもって、悔しいけど器量もいい。性格は変だけど、よく言えば飽きない。意外とタフだし、頭はキレる。とどめには家事も完璧。
 こんな女があたしの母親だなんて。そんなのって、そんなのって。

「あんまりだ……」
「へ?」
「あんまりだわ〜〜っ」
「ちょ、ちょっと!?魎呼!?」

 頭ん中がぐちゃぐちゃになってるのが自分でも判る。涙が出た。
 あたしがどんなに天地を愛してるって言ったって、そんなの何だか、単なる言葉遊びみたいだ。
 天地を包むたくさんの光。そして、天地自身が放つ光。
 その温かさに恋焦がれるように、あたしは天地を好きになっていた。
 天地が欲しい。天地のあったかい心が。その心で、光で、空っぽだったあたしを満たしてほしい。
 そして、あたしも。いつかあたしも、そんな風になりたい。天地みたいになりたい。
 手に入れたいの。天地や、それから今の鷲羽みたいに、誰かを優しく包むことができる光を。

「お馬鹿さんね」

 いつの間にか、抱きしめられていた。

「あんたはもう持っているじゃないの。天地殿には、ちゃーんと届いてるわ」
「でもそれは……あたしが勝手に好き好き言いまくってるだけで……」
「いい?魎呼ちゃん」

 息遣いも判るほど、鷲羽の顔が傍にある。ぬくもりが、伝わる。
 耳元で囁くように小さく、けれど強く響いてくる、その声。

「好きだって素直に言うことも、なりふり構わず追い掛けることも、皆なかなかできないのよ。そして、大抵の人間がそれを後悔するわ」

 かつての自分とも重ねているような言葉に、何故か胸が痛い。

「でも、お前はそれができる。なのに、何を焦る必要があるの?」

 互いの顔を合わせるために、あたしの肩に腕を回したままで鷲羽は少し身体を引いた。
 同時に、鷲羽の温度が離れる。

「心配しなくても大丈夫。お前はあたしの子なのよ。あたしなんかすぐに追い抜いて、宇宙一のいい女になる」

 その時、気付いてしまった。さっきあたしが恋しく想ったものが、何だったのか。
 手に入れて、失くして、やっと気付く。それがもう二度と戻らないことだってある。
 でも、少なくとも今は、手を伸ばせばいつだって届くところで、それは微笑んでいるのだ。
 涙でぐしゃぐしゃになったあたしの頬を、鷲羽が拭って、

「お前と天地殿は似てるわ」

 いつものようにじっと瞳を見据えながら、言う。
 単なるこいつの癖なんだろうけど、その眼があたしは怖かった。
 見つめられると、目の前に広がるその海に、身を委せてしまいたくなる。
 でも、そうしてしまったら、自分はどこへ行ってしまうのか。
 それが怖くて、拒み続けた。

「あたしと、天地が……?」
「そう」

 だけど今、ただ静かに寄せては返す、穏やかな波があたしを揺らす。
 それはまるで、ゆりかごのよう。生まれた命の鼓動のよう。
 すべてを送り出し、すべてを受け入れて、その深い瞳で赦していく。
 そこに怯えるようなものは何一つなくて、あたしは眠る赤ん坊みたいに、無防備だった。

「如何なる状況下においても、自分の信念は失わない。例えば、どんな理由があろうとなかろうと、救うべきものがあれば手を差し伸べる……そんな強さがね」

 不思議だ。根拠があるわけでもないのに、その言葉にあたしは安心している。
 考えてみたら、こいつはずっとあたしと同化していたのだから、あたしのことをよく知っていて当然なのだ。
 そう思うと、そんじょそこらの普通の母親より実はすごいんじゃないだろうか。
 どんなに親馬鹿な母親が子供のことばっかり考えていたとしても、まさか子供自身にはなれっこない。
 その点、鷲羽はあたしを育てたわけでもないし、母親らしい何かをするわけでもないけど、長い間あたしそのものだったわけだ。
 これはもしかしてもしかすると、ほんのちょこーっとだけなら、認めてやっても……。

「まー、湿布薬で内科学的な痛みは治らないと思うけどぉ」
「!!?」
「んふっ、うふふふふ〜。看病しようとしてくれてたのね〜。かぁ〜わいい魎呼ちゃ〜ん」
「………………」

 やっぱ止めた。こいつは甘やかすと調子に乗りやがる。
 今にも殴りかかりそうなあたしの気配を察知したのか、鷲羽は気色悪い笑顔を引っ込めて、咳払いをひとつした。
 そして今度は満面の笑みで、自信たっぷりに、

「だから、天地殿はいい男に、魎呼はいい女になるのよ。ママが言うんだから間違いない!」

 きっぱりとそう言い切る鷲羽は本当にいい女で、ここに天地がいなくて良かったなんて、あたしは性懲りもなく思った。
 だって、鷲羽のこんな顔を見たら、いくら天地でもうっかりこいつを好きになっちまうかもしれない。
 そんなことを考えてしまうあたしは、やっぱりまだまだ子供で、嫌になる。
 嫌になるけど、それでもいいやと思えた。鷲羽の笑顔を見ていたら、そんな気になったんだ。

「……ところで魎呼ちゃん」
「何だよ?」
「悪いんだけど、あたしの部屋まで一緒にテレポートして連れてってくんない?」
「はぁ?自分で行けばいいだろ」
「それがねぇ……ちょっと無理……」
「!?」

 笑顔から一転。言い終わらないうちに、その場に崩れ落ちる。
 地面に頭をぶつけるギリギリのところで、何とか支えることができた。

「地球の薬って……効くのは遅いのに、切れるのは早いのね……」

 全体重をあたしに預けながら、力なく訴える鷲羽。まったく、誰に言ってるんだか。
 ホント、一体全体宇宙のどこに、こんな世話の焼ける母親がいるってんだ。
 堪えきれずにこぼれた笑みを見られないよう、あたしは鷲羽をおぶってテレポートした。
 普段より一人分かさばってるはずなのに、あたしの身体はとても軽くて、鷲羽の体温があったかい。
 それが何だかくすぐったくて、あたしはまた、笑った。

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