多分、直ぐに組織の人が追って来るであろう事は、充分承知していた。
そんな事はどうでも良かった。
出来るだけ遠くに行きたかった筈なのに、私は走らなかった。
『 お前は 必要な 人間だ 』
『代わりなんて掃いて捨てる程』
私はどうして此処に居るのだろう?
いつから居るのだろう?
私は――私は、ただ……。
ひとりになりたくなかった。
寂しかった。
ガラクタでも構わなかった。不要なモノでも。構わない、それで良かった。
良かった?
決して外れない枷。
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ふと、気付く。
行く宛てのない自分に。
涙が零れて頬を伝った。
「助けて……」
涙は、馬鹿みたいに後から後から溢れる。
「助けてよ……」
私は何処にも行けない。
たとえいつか、枷が消えたとしても。
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「シェリー」
私に罪を被せようとした男だった。コードネームすら思い出せない…。
「さあ、どうするつもりだ?シェリー」
「……帰る……」
男の顔が勝ち誇ったように歪む。そーいう顔しか出来ないの?あなたは。
「……帰りたい……」
私は上の空で繰り返していた。
「帰りたい………」
これで良い。
これで良いのよ、今は。
そう思ったら、少し気が楽になった。
大丈夫、私は死なない。もう暫らくは生きている。
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次の朝も、やっぱりコーヒーは苦かった。
濃茶の液体は、キラキラ朝日に輝いていた。
私の手の中で。
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