ゆっくりと…

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     誰にも気付かれず

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     沈んでゆこう

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ツミビト

 

 

「非道い裏切りだったね」
周りの人は皆、そう言って私に同情して見せた。
私は、裏切られたらしかった。
組織の命令だからと、従わされてやらされていた研究が、今更違法だったというのだ。
研究チームのメンバーの中で一番幼かった私に、罪は全部やってきた。
私は危うく裁判にかけられるところだったが、誰かが上手くやってくれたらしく、難を逃れたのだった。
組織としても、事を大きくはしたくなかったのだろう。私の為じゃない事は判っていた。
しかし、他のメンバー達が寄って集って私に罪を被せようとするのは、あまり気持ちの良い事じゃなかった。
それ以上に、寄って集って私に同情する素振りを見せる奴らは、もっと気持ち悪い。
それでも、どこか仕方が無いのだと納得している自分が居たのも事実だった。
彼らの事なんて、ハナから信じてなどいなかった。
でも、私は裏切られたらしい。
信じてなかったのに?

「テメェの代わりなんて、掃いて捨てるほど居るんだからな」

誰かが余裕の無い顔で投げ付けてきた言葉。馬鹿じゃない?そんな事、知ってたわよ。

別に、「裏切り」なんて悔しくも何ともない。
ただ、policeとかprisonとかが、たまらなく怖かった。
行った事も、見た事すら無いと言っても過言ではないのに、凄まじい恐怖がそれには在った。
そういう時、私は「ああ、逃げられないんだわ」と感じる。
私の躰には枷が付いているのだ。

ヌイグルミは嫌いだった。
お人形も嫌いだった。

「強いね」

本当は潰れてしまいそうだった。
ちっとも強くなんか、なかった。

私の躰には枷が付いている。

その夜、私は施設から抜け出した。

 

 

Junk