本当はもっと

.

     もっと違う場所で

.

     こんなところじゃなくて、もっと――…

. 

.

.

.

.

.

トモダチ

 

 

私が組織の命令でアメリカに来て、数日が経った。
私の“コードネーム”はシェリー。
この国に来て、私の名前はシェリーになったらしかった。
「お友達になってね」
彼女は、私にそう言った。勿論、英語で。
「あたし、カルーアよ。あんたは?」
「シェリー……」
「宜しく、シェリー」
綺麗なウィンクをひとつ決めて、カルーアは笑った。
彼女は、同い年くらい。白人でそばかすがあったけれど、
碧い眼の、可愛い少女だった。こんな所にはきっと似合わない。
「そばかすは嫌い。嫌いだけどチャームポイントなのよ」
可笑しなことを言っては、彼女は笑っていた。
そうね、と短い返事だけの私を、怒るでも咎めるでもなく。
「そうだ、これ。この香水、あげるわ」
「え?どうして?」
「あたしがあげたいから」
「でも……貰う理由がないわ」
「いいじゃない、友達なんだから!友達だからあげるの。いいでしょ?」
友達なんだから、が彼女の口癖だった。

だけど私は、あの男を殺した。

 

 

 

キールという男。カルーアの恋人だった。けれど組織の命令は絶対だったから。
「言い訳はしないでよね」
彼女が、まず言った言葉だ。
「彼は、あんたに殺されたも同然なんだから」
「しないわよ」
「あんたなんか友達じゃなかった」
「そうね……」
こんな所にはきっと似合わない。彼女は此処に居るべき人間じゃなかった。

そして彼女は復讐をした。

私に、復讐を。

 

 

 

「自殺か」
彼女は死んで、私の中に巣喰った。永遠に、消えない噛み痕。
「居場所に潰された者の末路だな」
彼女の遺体を処理しながら、誰かが言った。

私はどうして此処に居るんだろう?

どうして英語なんか喋らなきゃいけない?

私は彼らに状況を説明しながら、全く的外れな事を想っていた。

 

Junk