私が組織の命令でアメリカに来て、数日が経った。
私の“コードネーム”はシェリー。
この国に来て、私の名前はシェリーになったらしかった。
「お友達になってね」
彼女は、私にそう言った。勿論、英語で。
「あたし、カルーアよ。あんたは?」
「シェリー……」
「宜しく、シェリー」
綺麗なウィンクをひとつ決めて、カルーアは笑った。
彼女は、同い年くらい。白人でそばかすがあったけれど、
碧い眼の、可愛い少女だった。こんな所にはきっと似合わない。
「そばかすは嫌い。嫌いだけどチャームポイントなのよ」
可笑しなことを言っては、彼女は笑っていた。
そうね、と短い返事だけの私を、怒るでも咎めるでもなく。
「そうだ、これ。この香水、あげるわ」
「え?どうして?」
「あたしがあげたいから」
「でも……貰う理由がないわ」
「いいじゃない、友達なんだから!友達だからあげるの。いいでしょ?」
友達なんだから、が彼女の口癖だった。
だけど私は、あの男を殺した。
キールという男。カルーアの恋人だった。けれど組織の命令は絶対だったから。
「言い訳はしないでよね」
彼女が、まず言った言葉だ。
「彼は、あんたに殺されたも同然なんだから」
「しないわよ」
「あんたなんか友達じゃなかった」
「そうね……」
こんな所にはきっと似合わない。彼女は此処に居るべき人間じゃなかった。
そして彼女は復讐をした。
私に、復讐を。
「自殺か」
彼女は死んで、私の中に巣喰った。永遠に、消えない噛み痕。
「居場所に潰された者の末路だな」
彼女の遺体を処理しながら、誰かが言った。
私はどうして此処に居るんだろう?
どうして英語なんか喋らなきゃいけない?
私は彼らに状況を説明しながら、全く的外れな事を想っていた。
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