Fatal Kiss

素早く身を翻し走り去ろうとする彼の姿が

彼女の視界に飛び込む。

彼女は全身に通電したかのような

痺れと激痛が走る錯覚に陥った。

自然に彼の方へと腕がのびる。

消え失せそうな大切な存在を

自分の傍に引き止める為に…。

考える余裕もなく感情のまま掴んだ腕を

力任せに引き寄せた。

勢いで彼の体の向きが

彼女と向かい合うような形になる。

あっという間だった。

彼女は彼に顔を寄せた。

合わさる口唇…。

伝わってゆく生きてる証。

彼のぬくもり…。

『お願い!行かないで…!!

あなたまで私の前からいなくならないで!』

悲痛な想いをそのまま彼に伝えるように

彼女は自身の体温を彼に与え続ける。

『工藤君、あなたを死なせたくない…!』

込み上げる感情が熱く潤った泉になり、

今にも溢れそうになるのを必死で堪える。

泉がいくつもの小さな粒に変化し、

閉じられた瞼から零れそうになるのを感じた。

それを塞き止めようと

自然に眉間に力がこもる。

柔らかな彼の口唇が小さく震えるのを感じた

その瞬間

彼から軽く突くように身体を押しやられた。

―― 拒絶 ――

その衝撃で彼女の固く閉じられた瞼が

小刻みに震えて開き、

塞き止められていた涙がぽろぽろと

零れ落ちた。

目に溜まった涙は彼女の瞳を

否応なしに揺らし続ける。

涙の向こう側に霞んで見える彼の姿にまた、

悲しみを覚える。

一度は怒鳴ろうとした彼の声はそのまま

消え入ったようだが、彼の瞳もまた痛々しく

揺れていた。

大きく見開かれたその目は

驚愕と苦しみを伴った衝撃を物語ってるのが

手にとるようにわかる。

彼を正視するに

耐えられなくなり、彼女は俯いてしまった。

『ごめんなさい……!』

懺悔の意志とはうらはらに…

いや、その気持ち以上の感情が

彼女を支配し、気がつけば小さく呟いていた。

「…きなのよ……」

もう、押さえられない。どうにもならず彼に

聞き返されるままに答えてしまった。

彼の顔を見つめながらはっきり告げた。

 

「あなたのことが好きなのよ…!」

 

もう後戻りは出来ない。

「今のは嘘」と言うにはあまりに遅すぎる。

説得力もない。

彼の気持ちは既に承知している。

だから…

今までのような関係はもう終わりだ。

そんな都合よく続けられるはずもない。

そうわかっていても彼の反応が怖かった。

彼女は今、喪失感の真っ只中にいる……。

 

  Lose Control  .............................