三 つ の 願 い

「なぁ灰原・・・おめぇいつも地下室にこもってんのか?」

「ええ・・・例のもの、少しでも早く完成させたいしね・・・」

今は学校への通学路・・・無邪気に何かの歌を歌いながら歩いている元太、歩美、光彦の三人の少し後ろで、いつもの様にコナンと哀が他の三人には聞こえないように話している

「たまには外に出ねぇと、体に悪ぃぞ?」

「あら、心配してくれてるの?でも生憎パソコンの前に座っているだけだから、そんなに疲れないわよ(ホントは結構疲れるんだけど・・・)」

何時間もパソコンの画面に映った化学式と頭脳戦を繰り広げているのだから当然である

「(ホントに疲れてねぇのか?)・・・まぁでも空いてるんなら気晴らしに今度の日曜、どっか行かねぇか?///あ、動かねぇと太ると思ったからよ」

最近自分の気持ちを自覚し始めていたコナンは、少し恥ずかしそうに恐る恐る聞いた


「(何考えてるのかしら・・・)ダメよ・・・言ったでしょう、少しでも早く完成させたいって・・・だから開いてる日なんて無いのよ」

当然のように断わる哀、ある程度予想はしていたものの少しがっかりしたコナン

「(ハハハ、即答かよ・・・まぁでもこういう所がコイツらしいのかもな)でも博士も『この頃、哀君があまり寝ておらんようなんじゃ』って心配してたぞ、いくらなんでも寝る時間まで惜しんでやることねぇんじゃねぇのか?」

「いいのよ・・・私なんかどうなっても・・・私の作った薬でたくさんの人が死んだのよ?間接的にとは言え人殺しに違いないわ・・・それに・・・あなただって幼児化していなければ、今頃は日本警察の救世主になっていた・・・それに、蘭さんとも・・・だから私なんか病気になろうが死のうが別に」

憎まれ口をたたく哀、そして彼女は次の瞬間、彼の怒りを感じた

「バーロー!!!」

哀の言葉をさえぎり、コナンがいきなり大声をあげた、当然それを聞いた哀と前にいた探偵団の三人は、驚いてコナンのほうを見る

「灰原!おめぇ何考えてんだ!この世にはなぁ、死んでいいやつなんかいねぇんだ!誰かが必ず悲しむんだよ!それに疲れてねぇってのもウソなんだろ!疲れてんなら帰って寝てろ!」

コナンも内心では哀の事を心配していたので、ついキツい言葉を言ってしまう

「・・・なんなの?その言い方!一応あなたの為にやってるですけど?それに私が死んだって、悲しむ人なんて誰もいないわよ!そんなことも分からないの?東の名探偵さんが聞いて呆れるわね」

「呆れてるのはオレのほうだ!」

「ちょっとやめてよ!二人とも!」

すかさず歩美ちゃんが止めに入る

「どうしたんですか?大声出したりなんかして?」

光彦も心配そうにしている

「そうだぞ、おめぇら朝から大声出すなよ」

元太は迷惑そうである

「ちっ・・・勝手にしろ!」

「フン!」

三人三様の反応を示す探偵団に対し、コナンと哀は互いに顔を反対方向に向けながらそう言って離れて歩き出し、学校へ向かった













「(どうしよう・・・絶対嫌われた・・・どうしてあんなこと言っちまったんだろう)」

「(言い過ぎたわ・・・バカね、私・・・心配してくれてるだけのに・・・)」

今はお昼休憩、と言っても、今日はこの後先生たちの会議があるので、授業は昼までしかなく、この後はホームルームを済ませて帰るだけであるあのあと二人は結局一言も話さないまま1〜4時間目を過ごしていた、コナンは廊下の窓からなにかをボーと見つめ、哀は机にひじをつき、こちらもボーと何か考え事をしていた

「どうすんだよ」

「どうしましょう」

「どうしよう」

「「「う〜ん」」」

そんな二人の状況を朝から見ていた探偵団は、なんとか二人を仲直りをさせようと考えていた

「あ〜ダメだ、いくら考えても思いつくかよ!」

最初に愚痴を言い始めたのは元太だった

「ちょっと元太君、まだほんの2、3分しか考えてないじゃないですか、簡単に諦めないで下さいよ」

「・・・でも光彦君、歩美もまだ何も思いつかないよ」

「確かに、二人とも難しい人ですからねぇ・・・まぁもう少し考えて見ましょう」

光彦も弱気になっている




「「「う〜ん」」」

考え始めて15分後

「・・・あっそうだ!歩美が一人ずつ説得してみるっていうのはどう?」

結局考え抜いた結果がこの案・・・しかしここで単純だがいけそうな意見が出た

「そうですね・・・よく考えてみればあの二人は歩美ちゃんには本気で怒れませんからねぇ、いい考えじゃないですか!」

「俺たちだったら何言われるかわからねぇもんな」

元太は光彦にそう言いながら苦笑する

「でも、光彦君・・・歩美の考えてる方法だったら、もしかしたら・・・今よりもっと振り向いてもらえなくなっちゃうかもしれないけど・・・いいの?」

「え?・・・ああ、そのことですか・・・いいんです・・・もともと僕では全然釣り合わないことくらい分かっていましたから・・・今は二人の仲のほうが大切です・・・それより歩美ちゃんこそ本当にいいんですか?」

「もちろんよ!」

「?」

一人ポカンと二人の話を聞いている人がいるが本人同士はその意味を分かり合っていた

「・・・まぁなんか良くわかんねぇけどよ、それなら話しは早ぇーな、あの二人の性格から考えたら他の奴らや、俺たち抜きで会わせたほうがいいからよ、あいつらに二人だけで会えるような場所に行って仲直りするように言えばいいんだろ?」

「バカですね元太君、そんな場所があるんですか?誰の邪魔も入らないような場所が・・・そこが一番の問題ですよ?」

「あ・・・そうか」

自慢げに話していた元太の勢いは光彦によって完全に消滅した

「あっ!じゃあ屋上はどう?あそこなら誰も来ないし・・・」

「ダメですよ・・・鍵が開いてないじゃないですか・・・かと言って、学校の外の場所だといつ誰が来るか分からないですし・・・」

「学校だって今日は先生たちが会議をやるからいいけどよう・・・今日を逃したら、明日から文化祭の取り組みで、早朝も放課後も当分生徒や先生でいっぱいだから学校もダメだぜ?」

「つまり時間は今日中で、学校の中で、コナン君と哀ちゃんが二人っきりになれる場所って事?」

歩美が条件を的確に整理する

「・・・そういう事になりますね、そんな所ってあるんでしょうか?・・・困りましたね」

「「「う〜ん」」」

3人が考えに行き詰ったとき、偶然担任の先生がトイレから出てきた

「吉田さんに小嶋君に円谷君、楽しそうに何の話してたのかな?」

「え!・・・ちょっとゲームの話を(ホントに楽しそうに見えたのかなぁ?)」

歩美は少し疑問に思いながらそう返事をしていた

「へぇ〜今時女の子もゲームとかすんのね・・・あ、今日は妙に黒板がきれいだったけど・・・日直誰だったっけ?」

「えーと、コナン君ですよ」

「じゃあ、みんなが代わりに江戸川君を褒めてあげといて、ああいう黒板って書いてて気持ちいいのよね、あっ!もう行かなきゃ、じゃあ三人ともよろしくね〜」

そう言って先生は立ち去っていった

「・・・コナン君が日直?・・・そうよ!」

歩美が何かひらめいたらしい

「どうしたんですか?歩美ちゃん」

「私たちの教室よ!いつもだったら教室に残ってお話してる人とかがいるけど、今日はお昼までだからクラスのみんなは早く遊びたいからすぐに帰っちゃうし、先生たちもお昼から会議があるって言ってたでしょ?それにコナン君が日直なら二人を会わせやすいよ」

「そうか!じゃあコナンを呼ぶ手間が省けるかもしれないしな!」

「うん!それに、もし誰か残ってても、その人は歩美たちが何とかして帰るように仕向ければいいでしょ?」

「そうですね・・・確かに僕たちの教室なら何の問題もありませんね・・・じゃあその方法で行きましょう!」

「うん!わかった!よ〜し歩美がんばる!」

「頼みましたよ〜歩美ちゃん」

「うまくいけばいいよなぁ・・・あいつら、機嫌が悪いままほっといたら話しかけづ
らいからなぁ」

どうやら一つの方法にたどり着いたようだ、そして歩美は最初にコナンの方に向かって走っていった










「ねぇ、コナン君?」

「・・・」

「ねぇってば!」

余程考え込んでいたのか1度目の問いかけにコナンは気づかなかったらしい、そして話しかけられるまでとても悲しそうな顔をしていたが、精一杯明るそうな顔をして返事をした

「・・・ん?歩美ちゃん何か用?」

「ねぇ、哀ちゃんと仲直りしてよ」

その問いかけにコナンは一瞬反応したが、すぐ話しかけられる前の悲しそうな顔に戻り

「・・・悪いのはあいつのほうだ、人がせっかく心配してるのに・・・いや、先に勝手に怒り出したのはオレだな・・・灰原はいつものように憎まれ口を言っただけなんだよな・・・軽く笑ってやればよかったのに・・・なんであんな言い方しちまったんだろう・・・全部オレのせいなんだよな・・・ホントは分かってたんだよ」

「コナン君・・・」

「たとえオレが謝ったとしても・・・もう許してくれないかもしれねぇ・・・あいつオレのこと嫌いみたいだから・・・」

「そんなこと無いよ!」

歩美は自信満々で答えた

「歩美ね、さっきチラッと哀ちゃんの顔見たんだ〜、そしたらね、今のコナン君と同じ顔してたよ!だからきっと同じ様なこと考えてるんだよ、それにこの前コナン君が学校休んだとき、哀ちゃんすっごく寂しそうだったもん!だからね、きっと哀ちゃんもコナン君のこと好きなんだよ!」

コナンは不思議そうな顔をしている

「・・・どうしてそれだけの事でそんな事が分かるんだ?」

「歩美は女の子だから他の女の子の気持ちもわかるの!(それだけじゃなくて、私もコナン君の事が好きだったから・・・)」

「ハハハ・・・んなバカな・・・灰原がオレのことを好きだなんて・・・そんな都合のいい話が・・・」

コナンはうっかり心の中だけで思い描いていたことばを口に出してしまう、そしてこの何気ない一言を歩美は聞き逃さなかった

「え?コナン君、都合がいいって・・・どういうこと?」

「え!?あっ・・・(しまった!バレたか?)だからほら・・・そのつまり・・・え〜と・・・」

「あ〜!もしかしてコナン君、哀ちゃんのこと・・・」

「(ヤベェやっぱりバレてる)///わ、分かったちゃんと仲直りするから絶対そのことオレたち以外誰にも言わないでくれ!歩美ちゃん!」

コナンは顔を真っ赤にして頼んでいる、もう今のこの人物は名探偵でも精神年齢17歳でもない様に見える

「え〜!ホント?うん、わかった!言わないからちゃんと仲直りするんだよ!」

「///分かったよ・・・」

「じゃあここに呼んでおくから絶対行ってね〜!」

そう言って歩美はコナンに一枚の紙切れを渡し、さっさと走っていった

「(ん〜なになに?・・・)」

[放課後1:45に1−Bの教室]

「(あ〜なるほど・・・そういえば今日オレ日直だったなぁ)」

彼らは彼らなりに一生懸命考えてくれたのだ

「あいつらも心配してるし、オレが謝まって済むのなら・・・(それにしても灰原がオレのことを好きだなんて・・・本当なのか?)」

コナンは複雑な気持ちで謝罪の言葉を考えていた










コナンを呼んだその足で哀の所に向かった歩美は明るく尋ねた

「ねぇねぇ哀ちゃん?」

「ごめんなさい、吉田さん・・・ちょっと今一人にしてくれないかしら・・・」

哀は数時間前に見た時よりもさらに悲しそうな顔をしていて、その目には涙が浮かんでいた

「哀・・・ちゃん?・・・何で泣いてるの?」

「え!?あっこれは・・・ちょっとあくびをしたのよ・・・」

そう言うと哀は急いで涙を払った、どうやら哀は自分の目に涙がたまっていたのに気がつかなかったようだ

「ふ〜ん、そうなんだ・・・」

歩美は雰囲気を読み、ここはあえて聞かないことにした

「あのね、コナン君が哀ちゃんと仲直りするって言ってくれたよ!」

「え!?」

歩美の口から思いもよらない言葉が出たため哀は目を丸くし、驚いて歩美の顔を見たが、またすぐに目線をそらし

「そんなわけ・・・無いわよ・・・私、あの人が心配してくれてるのに・・・あんなひどい事言ってしまったんだもの・・・『顔も見たくない』って言われるかもしれないわね・・・まぁしょうがない事なんだけど・・・」

「でもコナン君は哀ちゃんの事、好きだって言ってたよ(『オレたち』には『探偵団』は入ってるよね?)」

「///えぇ〜!?(ど、どうして?なんで?)」

どうやら歩美はコナンの言った言葉を極度に勘違いしているようだ、こうなる事を避けたくて言っておいたのに・・・

「良かったね、哀ちゃんもコナン君のことが好きなんでしょう?」

「///な、何言ってるのよ、違うわよ!それはあなたなんじゃないの?」

図星を突かれた哀は椅子から立ち上がり、かなり慌てている

「確かに好きだったよ・・・でもね、哀ちゃんのコナン君を思う気持ちはすっごく強くて絶対勝てないって、分かったときから、意識しないようにしてた・・・そしたらあんまり好きじゃなくなってたんだ・・・(たぶん光彦君も同じだったんだろうなぁ・・・)」

「///だ、だから違」

「じゃあそういうことでいいから、ここに書いてあるところに行ってちゃんと仲直りしてね!心配してるのは歩美だけじゃないんだから」

歩美はさえぎるようにそう言って、コナンに渡したものと同じ紙を差し出した、哀は少し考えたあとそれを受け取ると、クルッと後ろを向いた

「///そ、そうね・・・みんなにいつまでも心配かけちゃマズイし・・・江戸川君がそこまで言うのなら仲直りしてあげてもいいわ・・・」

表情を悟られないように後ろを向いた哀だったが、恥ずかしがっていることは焦っている声で完全にバレていた

「ヤッター!!ホントにホント?絶対絶対約束だよ!もし行かなかったら哀ちゃんとコナン君が両思いだって事言いふらしちゃうからね」

「///な!・・・///わかってるわよ・・・行けばいいんでしょ行けば・・・」

哀は焦りを通りこして開き直っている、先ほどのコナン同様、今の彼女からはいつもの威厳や貫禄は感じられない

「じゃあそういうことだから、ちゃんと行ってね〜」

そう言うと、歩美は元太と光彦のところに戻って行った、哀がこっそり様子を見てみると、飛び跳ねて喜んでいる三人の姿が確認できた

「これからの友達関係のためにも行ったほうがいいわよね・・・(それにしても、工藤君が私の事・・・でも蘭さんは?・・・いったいどうなってるの?・・・行って確かめるしかないみたいね・・・)」





コナンがそうであったように、哀もまた複雑な気持ちのまま椅子に座っていると、1:20の昼休憩終了のチャイムが鳴り響いた

運動場で遊んでいた子供たちも続々と戻って来て、先生が教室に入ると廊下にいた子供たちも渋々入ってきた、もちろんコナンもその一人である

「は〜い!みんな〜明日の連絡をしますよ〜」

先生がそう言うと、ほとんどの子供たちは聞いていたが、ある二人は自分の隣に座っている人物を意識していてそんな言葉など耳に入っては来なかった

「おい・・・」

「なによ・・・」

幸い二人の席は後ろのほうなので少しくらいしゃべっていても先生には聞こえない

「歩美ちゃんから聞いたのかよ?」

「・・・なにをよ?」

「ここに来いって事・・・」

「・・・聞いたけど?それが?」

二人ともこのあとの事で心臓が苦しいくらいドキドキしてしてしているのに、互いに素直になれずに素っ気無い口調で言っている

「ちゃんと来いよ・・・待ってるからな・・・」

「ええ・・・必ず行くから・・・待ってて・・・」

顔を背けあって交わしたこの一言ずつが、この場で言った唯一のお互いの本音だった、もはや仲直りなど不要だったのかもしれない










先生が話し始めて約10分がたった、1:30前後である

「はい!連絡はこれでおしまい!朝も言った通り先生はこの後会議があるからもう行きますね、あと今日の掃除はやらなくていいからね」

「「「は〜い」」」

「それでは、みなさんさようなら〜」

「「「先生さようなら〜」」」

そう言うと先生と生徒たちは次々に教室から出て行く、偶然にも今日教室に残っているコナン以外の生徒は一人もいなかったため、探偵団の3人は人払いをする手間が省けていた、なお帝丹小学校の日直は1日1人制なので、コナン一人が教室に残っていても日直の仕事だろうと思うのが普通で、だれも怪しまなかった

一方、哀はいったんは探偵団の3人と一緒に教室を出たが、靴箱まで来て立ち止まった

「あっ・・・教室に忘れ物をしたみたいだわ・・・遅くなるかもしれないから先に帰っておいて」

「「!」」

この言葉の意味に気づいた人が二人いた

「そんなの待っててやるぜ」

鈍いのか忘れているのか元太は気づかない

「(な・・・元太君まさか忘れてるんじゃ・・・口に出すわけには行きませんから、元太君を帰るように誘導しましょう、歩美ちゃん)」

「(もう・・・元太君ったら、何で気づかないのかなぁ・・・うん、わかった、光彦君)」

すばやくアイコンタクトを交わし、歩美と光彦がすかさずフォローに入る

「元太君、歩美これからママとお買い物に行く約束してるから早く帰らないとママに怒られちゃうの・・・だから先に帰るね」

「僕もお母さんと文房具買いに行くんで帰らなきゃならないんですよ・・・」

「おいおい、二人とも帰んのか?・・・じゃあ悪ぃけど、やっぱり先に帰っとくぞ、灰原」

どうやら作戦成功のようである

「ええ、いいわよ」

「じゃあね〜哀ちゃん(やっぱりコナン君には哀ちゃんのほうが・・・)」

「では灰原さんさようなら〜(・・・当たり前ですけどコナン君のほうがよっぽど灰原さんにお似合いですね・・・)」

「じゃーなー灰原」

三人のうち二人は、はっきりと自分の気持ちにけじめをつけていた

現在1:40・・・刻一刻と約束の時間が近づく中、哀は三人が走り去った後、ゆっくりと教室に向かって歩き始めていた

「(工藤君・・・私の事・・・どう思ってるの?・・・あの後いろいろ考えてみたけど、やっぱり好きだってことはありえないわ・・・だって工藤君には蘭さんがいるもの・・・どす黒い組織から逃げてきた私なんか・・・絶対かなわない・・・きっと吉田さんが勝手に思いこんでるだけだと思うけど・・・会って確かめるしかないわね・・・)」







その頃コナンは早々に日直の仕事を終え、教卓の近くに立って哀が来るのを待っていた

「(許してくれるだろうか・・・あんな言い方したのに・・・でもさっきの雰囲気だとあんまり怒ってなかったようだし・・・)」

あれこれと考えているうちに5分前になった

「(・・・あと5分・・・よし!もうふられたって構わねぇ・・・今のオレの気持ちを伝えよう・・・)」

コナンはその心に一つの強い決心を秘めていた










ガラガラッ・・・静まり返っていた教室にドアを開ける音が響いた

「・・・」

ガラガラッ・・・ピシャン!哀は無言でドアを閉める

「・・・ちゃんと時間どおり来たわよ・・・」

「ああ・・・」

「で?・・・なに?」

「え?・・・なに?って・・・その・・・灰原に言っておきたいことがあってよ・・・」

「あら?なにかしら?改まって・・・薬の話?それとも組織の手掛かりについての話?」

「・・・あのさ・・・朝、あんなこと言って・・・ゴメンな・・・」

「え!?」

哀には意味が分からなかった、元はと言えば自分が皮肉を言ったせいなのに・・・

「・・・酷いこと言って・・・ホントにゴメン・・・」

「どうして?・・・なんで工藤君が謝るの?・・・」

とっさに哀は『工藤君』と言ってしまう

「こうせずにはいられねぇんだよ・・・自分の一番大切な人を・・・自分で傷つけちまったんだから・・・」

「(え!?・・・それって・・・)」

「オレ・・・灰原のことが好きだ・・・」

「嘘よ・・・」

「ずっと言えなかったんだよ・・・自分の気持ちは分かってたのに・・・素直になれなくてよ・・・でも『嫌われた』って思った時、何かもの凄く大切なものを失った気がした・・・だからもうそんなのは嫌なんだ・・・」

「そんなの嘘よ!やめなさいよ!どうせ私の機嫌損ねたままだったら解毒剤が手に入らないからそんな事言ってるんでしょ!そうしないと元の姿に戻れないし、彼女に会えないからでしょ!お世辞なんかいらないわよ!」

哀は急に大声をあげて、泣きながらそう言った

「嘘じゃねぇ・・・オレは本当に灰原のことが」

「もういい加減にしなさいよ!よくそんな嘘が平気で言えるわね!見損なったわよ!」

まるでその続きを聞きたくないかのように、コナンが言葉を言い終わる前に哀が口を挟んだ

「・・・オレの事が嫌いならそれならそれで構わねぇ・・・『大っ嫌い!!』ってふってくれても構わねぇ・・・でも信じてくれ・・・灰原、オレはもうお前を誰にも渡したくない・・・絶対に失いたくない・・・これがオレの本音なんだ・・・」

本当は『振ってくれてもいい』なんて全然思っていないのに、コナンは哀を気遣い小さな嘘をついた

「そんなの信じられるわけないじゃない!」

哀の方も『信じられない』と言うのは全くの嘘なのに、今のこの夢のような現実の状況をなかなか受け入れることができずにいたので、そんな言葉を口走ってしまう

「なら、信じてくれるまで何度でも言うから・・・」

「じゃあ彼女はどうするのよ!ほっておけないんでしょう?・・・そうなんでしょう?認めたらどうなのよ!」

「蘭のことは・・・もうかなり前から『好き』っていう感情じゃなくなってたんだ・・・灰原、お前に出会ったその日からな・・・だからもうあいつにただ待たせるのは辞めるつもりだ・・・そして今は・・・灰原を傍で守りたいんだ」

さすがにここまで真剣な顔をして何度も『好きだ』ということを意味する言葉を言われると、哀は『真剣に答えなければ』という気がしてきた、そして怒るのをやめ、さっきから『聞きたい』けど『聞くのが怖かった』という言葉を意を決して聞いた

「・・・ホントなの?・・・さっきからの言葉・・・信じていいの?」

「もちろんだ・・・灰原さえ傍にいてくれるのなら、旧友も、過去の名誉も、そして元の体もいらねぇ・・・」

そう言ってコナンはそっと哀を抱きしめた、苦くないように優しく・・・

「お願いだ、灰原・・・ずっと一緒にいてくれよ・・・」

哀も最初はコナンの発言と行動に驚き、目を丸くしたが、すぐにコナンの胸に顔をうずめ暫くの間泣きじゃくっていた、まるで幼い小学一年生の女の子のように・・・










「・・・クスン・・・」

どのくらい時間がたったのか分からないほど時間がたった、ようやく哀は泣き止んでいた、コナンはまだ哀を抱きしめたままである

「・・・あの・・・灰原・・・落ち着いた?」

「ええ・・・でも、もう少しこのままで・・・」

哀はコナンの胸の中が気持ち良くて仕方がなかった、顔をうずめたまま永遠に時間が止まってしまえば・・・とさえ思った

「わかった・・・じゃあそのままでいいから聞いてくれ・・・改めて言うよ・・・オレは灰原のことが他の誰よりも好きだ・・・だからオレと付き合ってくれねぇか?・・・もちろん元の体に戻ってからでも構わねぇから・・・灰原、お前の返事を聞かせてくれ・・・時間のほうは気にすんな・・・いつまでも待つからよ・・・」

コナンに全く恥ずかしがる様子は無く、心の底からそう言っていた

「・・・ねぇ?・・・吉田さんから何か聞いてないの?」

「え!?・・・灰原がオレの事、好きだって言ってたけど・・・本当かどうかなんて・・・」

「私も聞いたわよ・・・工藤君が・・・私の事、好きだって・・・」

「え!?(歩美ちゃん、言わないでくれって言ったのに・・・)・・・そうだったのか・・・悪かったな、二度も同じこと聞かせちまって・・・」

「そんなこと無いわよ・・・///だって工藤君の口から直接聞きたほうが何倍も嬉しいもの・・・」

「え!?(それって、まさか・・・)」

驚いた様子でコナンは哀を抱きしめている手を緩め、哀の目を見た

「///私・・・今、目の前にいる人が好き・・・あなたに負けないくらい・・・」

少し赤くなって恥ずかしそうに言う哀、その精一杯の答えに対し、コナンは同じように赤くなりながら返事をする

「///ありがとう灰原・・・これから・・・その・・・よろしくな」

「///ええ・・・こちらこそ・・・よろしくね、工藤君・・・」

お互いに顔をさらに赤くし、顔をそらし、ランドセルを持って教室に鍵をかけ、帰路に着いた

ちなみに今は4:00、二人がいかに長い時間抱き合ったままだったのか分かるだろう










その帰り道、不意にコナンが口を開いた

「・・・なぁ灰原、今度の日曜どっか行くって話・・・もう一度考え直してくれねぇか?」

「ああ、あれね・・・行ってもいいけど・・・(そうだわ!クスクス・・・)私の三つの願い事、聞いてくれたらね・・・」

「ん?なんだ?三つの願い事って?」

「そうね・・・まず一つ目は私をにいろんな所へ連れて行くこと、もちろん工藤君のおごりでね」

「げっ!・・・う〜ん・・・分かった、灰原のためなら・・・」

コナンが少し気障なことを言っているが、それを無視するかの様に哀の『願い』の仮面をかぶった要求は容赦なく続く

「二つ目は私が『ほしい』って言ったものを、一つプレゼントすること、金額制限は・・・無しね」

「無し?おいおい・・・それはいくらなんでも」

「あら、いいのよ別に、私を泣かせたこと吉田さんに言ってあげても・・・どうなるか楽しみだわ・・・クスッ」

そんなことがすべてのクラスメイトと仲がいい歩美の耳に入ろうものなら、クラス全員の女子、男子すべてを敵に回しかねない

「え!?た、頼むそれだけは・・・分かった!三つの願い事を全部聞いたら黙っててくれるんだろ!」

恋人になった二人だが、コナンは相変わらず哀には頭が上がらないようだ

「クスクス・・・そうよ、ちゃんと叶えてくれたらね(言うつもりなんて無いのに・・・ホントにからかいがいのある人ね)」

「じゃあ・・・三つ目は?(可能な範囲にしてくれよ・・・)」

コナンは余り聞きたく無いことを恐る恐る聞いた

「そうね・・・また思いついたら言うわ」

「ハハハ・・・(ほっとしたような、怖いような・・・)なぁ、じゃあオレの願いも聞いてくれよ」

「どうして?」

「・・・代わりにだよ、心配しなくてもお前ほど無茶なことは言わねぇよ」

「勝手ね・・・まぁ・・・叶える叶えないは別として、とりあえず聞いてあげるから言ってみたら?」

本来の哀なら『イヤよ』とでも即答しそうなものだが、告白された後と言うこともあって、少しコナンに甘くなっているようだ

「///オレも三つあるんだけど・・・一つ目は・・・その・・・」

明らかに顔が赤くもたもたしているコナンに哀は痺れを切らした

「いったいなんなの?言ってみて」

「///名前で・・・呼んでもいいか?」

「///え!?」

言ったほうも言われたほうも真っ赤な顔をしている

「///これが一つ目だけど・・・ダメか?」

「///ううん・・・全然いいわよ・・・工藤君さえよければ、そうして・・・むしろそうしてくれるほうが嬉しいから・・・」

「ホントか?・・・(よし!)聞いてくれてありがとな、///哀」

「(!・・・///もう、いきなりなんて反則よ・・・)・・・///で?あとの二つはなんなのよ?」

「哀が三つ目の願いを言う時にオレも一緒に言うから三つ目はまだ言わねぇよ」

「・・・それなら自由にするといいけど・・・『三つ目をまだ言わない』って事は裏を返せば『二つ目は今言う』って事よね?じゃあ二つ目は何?」

「///ああ・・・手つないだり、腕組んだり・・・恋人らしいことしようぜ・・・お前とそういう事するの、夢だったんだよ」

「(///普通こういうこと、女のほうに返事させる?しかも夢って・・・)///いいわよ・・・工藤君の好きにすれば?」

そう言うと、すぐにコナンが自分の右手で哀の左手をそっと握った

「///あ・・・」

「///なんだよ・・・もうOKの返事はもらっただろ?」

「///ねぇ・・・もう少し、遠回りして帰らない?」

「ん?ああ、そういう事か・・・でもあんまり遅いと博士が心配するんじゃ・・・」


「いいじゃない・・・適当に言い訳すれば・・・こんな日くらい言い訳しても、バチは当たらないと思わない?」

「・・・そうだな・・・じゃあ日曜の8:30ごろ迎えに行くから・・・///忘れんなよ」

「///ええ・・・分かってるわよ(忘れるわけないじゃない・・・今回が私の初デートなんだから・・・)」

二人の頬がずっと赤いままなのは単に米花町の夕日が二人の顔を照らしているだけではない事は言うまでもない

今日、この二人は悲しい嘘をつき、真実の告白をした・・・この帰り道の二人は世界の誰よりも幸せだった

★感想はスカーレット様まで★

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