三 つ の 願 い

「ただいま・・・」

哀が阿笠邸に到着する、知らされていた帰宅時間と大幅に違うので博士が心配するのは当然の事

「おお!お帰り哀君・・・どうしたんじゃ?随分と遅かったようじゃが?」

「別に・・・工藤君が私に告白してきたのよ・・・だからそのせいで遅くなっただけよ・・・」

内心とは裏腹に哀はいつもと特に変わらない口調で説明する、もちろん博士は聴いた瞬間、飲んでいたコーヒーを噴き出すほど驚いた・・・が、前になんとなく『こんな日がいずれ来るのではないか』と予想していたのを思い出し、すぐに落ち着きを取り戻す

「なに!?・・・そうじゃったのか(全く・・・新一君も隅に置けないのう)それで?返事はどうしたんじゃ?」

博士は哀とコナン、双方をよく理解しているが故に二人の関係が気になっている事は哀にも容易に察しがつく

「///・・・どうだっていいじゃない、そんな事・・・」

明らかに表情に出ていることが哀本人にも自覚できた、哀は表情を隠すように博士に背を向けながらリビングへ行ってランドセルを下ろし、ソファーに座って雑誌を読み始める、博士は瞬時にその表情を読み取り、返事の内容を理解すると居ても立っても居られないと言わんばかりにソワソワと歩き回っていたが、突然どこかへ電話をかけ始め、なにやら15分ほど楽しそうに話し、やがてそれを終えて哀の居るリビングへと戻ってくる

「ちょっといいかのう?哀君」

「なに?」

「今電話で有紀子さんがワシの家に置いてある女物の服をすべて哀君に譲ってくれると言っておったぞ」

「え!?・・・それはとても嬉しいんだけど・・・どうしてそんな急に?」

普通なら哀は博士の電話での会話の内容くらいすべて暗記しているほど注意力が高いのだが、玄関での一件でそれが散漫になっていた為かその内容を聞きそびれていた

「あ・・・ホレ、哀君の着られるような洋服がワシの家にはなかったじゃろ?しかし買ってあげようにもワシに服のことは分からんし・・・それで有紀子さんに相談したら『それなら私のをあげる』と強く勧められてのう、ハハハ・・・」

博士は普通に『哀とコナンが両思いになった事を報告した』と話すつもりだったが、『何言いふらしてくれてるのよ』と哀にジト目を向けられる事がいかに恐ろしい事かという事に気づき、とっさに慌てながら適当な理由を作ったのだった、まぁ哀は博士のこの『慌て』を服について何も分からないことに対する自分への『呆れ』と取ったようだが・・・

「へぇ〜・・・でもどうして有紀子さんが私くらいの年の女の子の服なんて持っていたのかしら・・・」

「ああ、彼女が女優をやっておった頃にドラマの子役さん達と衣装交換をしてたくさん手に入れたそうじゃ」

「・・・でも優作さんはもちろん、有紀子さんが着られるわけでもなく、工藤君も男だったから女物の子供服だけ貯まっていって博士に預かってもらっていたってワケね」

「そうなんじゃ、まぁ有紀子さんは自分の衣装だけでも数がもの凄くて、着ない服までタンスやクローゼットに入り切らんかったというワケじゃよ、それにワシの家で有紀子さんが新一君が小さい頃に女物の服を買ってきて着せて遊んでそのまま服だけほって帰るという事も多々あったからのう・・・」

「なるほどね・・・でもそんな大切な物、本当に貰ってもいいの?」

「『ぜひ哀ちゃんに貰ってほしいのよ』と本人が言っておるんじゃから遠慮することはないじゃろう、それに次帰国する時にもう少し買ってきてくれるそうじゃ」

「え!?まだくださるの?・・・私は何もお返しできないのに・・・少しは遠慮したんでしょうね?」

「ああ、ワシも『哀君が気を使ってしまうから一度にそんなにたくさん譲るのもどうかのう』と言ったんじゃが、ワケの分からない事を言って電話を切ってしまったんじゃよ」

「ワケの分からない事?・・・なんて言ってたの?」

「確か・・・『お返しは哀ちゃんと新ちゃんの愛の結晶を見せてくれる事で手を打つわ♪』だったかのう・・・どうもワシにはサッパリ・・・」

これで博士がこの手の言い回しに鈍いことが証明される

「///わ、私と工藤君の愛の結晶!?ちょ、そんな・・・///」

「ん?哀君は分かるのかね?」

「///し、知らないわよ、そんな事・・・」

「じゃよなぁ・・・なんのことかのう・・・」

博士が考えてその意味に気づいてしまう確率はゼロではないので、哀はやっとの事で胸の鼓動を沈め、話題転換を試みる

「(///まぁ博士には一生分からないでしょうけど一応ね・・・)あ、博士・・・日曜日ちょっと工藤君と出かけるから・・・」

「おお、それは別に構わんが・・・どこへ行くんじゃ?」

「さぁ?私は知らされてないわ・・・工藤君が考えてくれるんじゃないの?」

「そうかそうか・・・新一君が一緒なら安心じゃ!何があっても哀君を守ってくれると信を置けるからのう、安心して思いっきり楽しんでくるといいじゃろう」

「ええ・・・あ・・・そういえばさっき博士の家に置いてあるって言っていたもの、
どこにあるの?」

「あれは確かワシの部屋の隣のクローゼット全部じゃよ」

「そう・・・」

哀は読んでいた雑誌を机の上に置き、軽い足取りで聞き出した所へ向かっていった

「(表情がほころんでおったのう・・・これも新一君の・・・いや新一君と有紀子さんのおかげじゃな)」

博士の表情には親心に似たものがにじみ出ていた

「・・・これじゃ色が合わないわ・・・でもこっちだと似合う靴がないし・・・」

哀は嬉しそうに服をあれこれと選んでいたが、それは哀にとって大学の薬学よりも難しい課題だった










哀が阿笠邸に着くころコナンも毛利探偵事務所に到着していた

「ただいま〜」

「もう!遅かったじゃない!こんな時間まで何やってたのよ!」

蘭はおやつに作ったホットケーキが冷めてしまったと言って怒っている

「ごめんなさい」

「せっかく早く帰るって聞いたから作っておいてあげたのに・・・今度から遅くなるんだったら連絡ぐらいするのよ!」

「ハ〜イ」

コナンはランドセルをソファーの上に置いた、当然蘭の前なので小学生を演じているが・・・

「ねぇ蘭姉ちゃん、日曜日ちょっと出かけてもいい?」

「いいわよ・・・て言うか丁度良かったわ、私も日曜日は空手の集中練習で朝からいなくて、お父さんも目暮警部から呼ばれているみたいだからコナン君のご飯どうしようかなって思ってたのよね、悪いけど朝と昼はその行き先で食べてきてね・・・ところで誰とどこへ行くの?」

「・・・灰原さんとだよ・・・場所はまだ決まってないけどね」

「ふ〜ん・・・え!?他の三人は一緒じゃないの?どうして?いつも一緒なのに・・・」

あれだけいつも一緒なのだから、蘭に限らず周りの者にとっては当然口にするであろう疑問

「(蘭には言っておいたほうがいいよな)・・・実はさ・・・今日僕、灰原さんに『好きだよ』って言ったんだ・・・」

「えぇ〜〜〜〜!?コナン君が?哀ちゃんに?やるじゃないコナン君!で?返事はなんて言ってた?」

「灰原さんも僕に『好きだよ』って言ってくれたよ」

「じゃあ、両思いなの?やったじゃない!なるほどね・・・初デートだからあの三人が一緒じゃないのね・・・私もコナン君と哀ちゃん、とってもお似合いだと思うわよ、二人とも知的だしね」

「うん・・・(中途半端じゃダメだ・・・そろそろケジメをつけなきゃなんねぇ・・・そうでないと・・・哀に言ったあの言葉、信じてもらえねぇ・・・)あのね、蘭姉ちゃん・・・」

「なぁに?」

「今日帰りに博士ん家に寄ったんだ・・・そしたら、新一兄ちゃんから電話があってね・・・」

「ふ〜ん・・・新一からねぇ・・・で?どんな電話だったの?」

「『外国に行くことになったから、もうみんなには会えないかもしれねぇ』って・・・」

「!」

ガシャン!・・・蘭は片付けようとしていたコーヒーカップを落として割ってしまう、蘭の耳にはコーヒーカップの割れた音が妙に長く響いていた・・・

「嘘・・・」

「それから、蘭姉ちゃんに『もうオレなんか忘れてくれ』・・・そう伝えてくれって・・・」

キツイ言葉・・・だがそうとでも言わなければ自分の事でいつまでも引きずらせてしまう・・・

「嘘・・・だよね?コナン君・・・ねぇ?その話、冗談なんでしょう?」

「・・・僕・・・蘭姉ちゃんには嘘つかないよ・・・」

いつもとは明らかに違うコナンの表情と雰囲気に気づいたのか、蘭はコナンの言葉を信じた

「・・・そっか・・・やっぱり愛想つかされちゃったんだ・・・馬鹿だったんだね・・・私・・・」

蘭は下向き加減でつぶやいていた

「それは・・・」

コナンの言葉はそこで遮られる、コナンの姿で『新一』と『蘭』の関係について口出しする事はできない・・・ということもあったのだが、コナンが口を閉ざした何よりの理由は、蘭の言うこと、つまり『愛想をつかされた』ということが100%間違っているというわけではないという事・・・いやむしろ考え方によっては、この上なく正当だとも言えなくはない事だった、なぜならコナンは哀を選んだのだから・・・言い方は悪いかもしれないが紛れもない事実なのだから・・・

「・・・でも・・・なんか丁度良かったのかもしれない・・・」

「・・・なにが?」

「実は私ね、赤井秀一さんって言う人から3日前にプロポーズされたんだ・・・コナン君も知ってるでしょ?あの雪道であった人」

「(!・・・あのFBIの・・・)」

「普通知り合いでもないのに海外と日本で二回も会うことなんてめったにないでしょ?だからちょっと運命的なものを感じてたんだ・・・それに結構強いし、見かけよりずっと優しくて頼りになる人なんだ・・・でも自分の中のどこかにまだ新一がいたから・・・でも新一のほうからそう言われたんじゃしょうがないよね・・・逆に吹っ切れたよ・・・気持ちの整理がついた・・・感謝しなきゃ・・・」

蘭は悲しげな顔をして天井を見上げながら呟いた、だがその声は明るかった

「・・・蘭姉ちゃん・・・僕は今すごく幸せだから・・・蘭姉ちゃんもその人と幸せになってね・・・」

「(コナン君・・・)もう!分かってるわよ、子供のくせに変なこと言わないでよ・・・でも・・・」

「なに?」

「『好きだ』って言った限りは、男の子は何があっても女の子を守らなきゃダメだよ・・・それに、勝手に傍を離れてどこかに行ったり、そのまま帰って来なかったりするのも絶対ダメ・・・分かった?哀ちゃん泣かせたら私が許さないからね!」

蘭の脳裏でコナンと新一がシンクロする

「うん、分かった・・・」

「分かればよろしい!じゃあ私、明日の晩御飯の買出しに行って来るね!」

「え!?でもそこにスーパーの袋が三つも」

「買い忘れたものがあるの!・・・じゃあ、行って来るから・・・」

蘭は早く一人になりたいと言わんばかりに走って出て行く、しかしコナンは蘭の目に涙が浮かんでいたのを見逃さなかった

「(ゴメンな蘭・・・でもオレ・・・自分の気持ちに嘘はつけねぇ・・・オレが本当に好きなのは・・・オレが心から愛しているのは・・・哀なんだよ)」

コナンはただ床を見つめていた・・・蘭が帰ってきた後、コナンは近いうちに自分が阿笠博士の家に引っ越すということを蘭に告げた、当然蘭は新一とコナンという、大きな存在を一度に二人も失い、明らかに無理やり買ったと思われるお菓子の入ったスーパーの袋を床に落とし、ソファーにうつ伏せになって泣いてしまう、コナンは軽く慰め、その場を立ち去った

表向きの理由は『やはり見ず知らずの人のところより親戚という事になっている博士の家のほうが親も安心するから』という事だが、コナンの本心としては特に元の体に戻る必要性がなく、もはや強いてこの探偵事務所にいる必然性もなく、有名になり過ぎ、テレビなどに出て組織に見つかる危険性もあるので、博士の家に行くのが最善の策であったのだ、その策は当然『いつも哀の近くに居て安心させてやりたい』という気持ちも考慮されていたのだが・・・

この一日でコナンは、蘭や元の自分に別れを決意した、それはコナンにとって決して良いことではなかった、しかし自分がいつまでも後ろを振り返って過去を引きずってばかりは、いられない・・・自分がいつまでも悲しい表情をして落胆していてはいけない・・・なぜなら、人一倍傷つきやすいくせに、責任の無い事まで自分のせいにして自分で自分を傷つけてしまうような・・・そんなか弱い恋人が居るのだから・・・誰かが傍について守ってあげなければならない愛しい恋人が居るのだから・・・『前を向こう』・・・コナンは気持ちを切り替え、哀とのデートコースをその日のAM2:00まで考えていた、哀との新しい人生を始めるために・・・










デートの当日、今は7:30、初デートということもあってか、コナンは何度も何度も持ち物の点検をし、忘れ物がないか確かめていた

「(え〜と・・・現金は行くときに自分の口座から20万くらい引き出していくか・・・ちょっと大袈裟か?いや哀になに買わされるか分からねぇし・・・もし『金が足りねぇ』なんて状況になったら洒落になんねぇし・・・一応念のため父さんのカードも持ってくか・・・服は・・・いろいろ考えたけどこれが一番いいぜ)」

コナンが選んだのは白い長ズボンに淡い紺色のフード付きトレーナー、そしてその上に羽織ったのは、バスの爆破、酒蔵での監禁という二つの大きな哀の危機を救った時に着ていたジャンパーだった、一応万一のときに備え、博士の発明品は身に着けて行くことにした、これは半分癖になっていると言っても過言ではない

「(よし!映画のチケットも持ったし、もう忘れもんはねぇな・・・っていうか金さえあればあんまり何もいらねぇんじゃねぇのか?)」

些細な疑問を抱いていると出発予定時間になる、ふと後ろの方でドアの音がしたかと思うと眠そうな顔をして蘭が起きてきた、昨日泣いていた為か少し目が赤い

「ふぁぁ〜・・・おはようコナン君」

「あれ?蘭姉ちゃん朝から練習じゃなかったの?」

「それが夜遅くに連絡網がまわってきて『昼からに変更』って・・・これなら昨日からご飯仕掛けてけば朝御飯作れたのにね」

「あ・・・ああ、大丈夫だよ、何とかなるから(ヤッベー朝御飯のことなんて完全に忘れちまってたぜ・・・)」

「そうだよね、昨日から元々そういう事になってたんだし・・・それよりもう行くの?」

この言葉でコナンの頭の中は『朝御飯抜き』から『デート』のことに切り替わる

「(そ、そうだった、もう行かねぇと・・・ま、朝抜いたくらいで死ぬわけじゃねぇし・・・デート優先、デート優先)うん!じゃあ行ってきま〜す」

「は〜い、いってらっしゃ〜い、気をつけてね〜(私も前向きに生きる・・・別れは辛いけれど、それを恐れていてはお互いにちっとも前に進めないから・・・新一、コナン君・・・大切なこと教えてくれて・・・本当にありがとう)」

「ハーイ」

そう言うや否やコナンは早々と玄関を飛び出し、『ターボエンジン付きスケートボード』でまず銀行へ行き、博士の家に向かった

「・・・さて、お昼まで空いちゃったし・・・秀一さんとお茶でもしよっかなー・・・あ、仕事してるのを邪魔しちゃったら悪いかな・・・でも会いたいし・・・」

蘭の悩みは暫く続いた










こちらは7:45頃の阿笠邸、哀は以前の自分では絶対に着ないだろう・・・というような服に着替えていた、この間突然帰国し、瞬く間にまた渡米した有紀子が哀の為に買って置いていった服なのだから当然と言えば当然だが・・・

「(///やっぱりちょっと・・・)」

着ている本人も見ている人も恥ずかしくなるほどの物で、見えるか見えないかギリギリの短さの赤と黒のチェックのミニスカートに、袖が肩までの深い紺色の服、少し肌寒かったのでその上に同色同質の長袖のものを羽織っていた、こちらはコナンとは違い、荷物の用意はすでに昨日までに完全に終わっていた

「(・・・ま、今更着替えるのも・・・)そろそろ朝御飯作ってあげないとね・・・」

哀が自室からリビングに出ていくと、起きたばかりと思われるパジャマ姿の博士の姿があった

「!?・・・哀君・・・また女の子らしい服を着たもんじゃのう〜」

博士はもちろんスカートの事を言っている

「・・・ジロジロ見ないでくれる?着ている本人も恥ずかしいくらいなんだから・・・」

「・・・だったら何で着とるんじゃね?」

「///どうだっていいでしょ・・・せっかく貰ったのに着ないと工藤君のお母さんに悪いから着てみた、それだけよ・・・これ以上追求するのなら食事制限するわよ?博士なら三日ぐらい食べなくても死なないでしょうからね・・・」

博士は一瞬自身の恐ろしい姿を想像する

「おいおい・・・それだけは勘弁してくれんか、哀君」

この時哀は心の中で『工藤君に見てもらいたいから』という答えが浮かんだが、当然口に出せるわけもなく『この理由でこの服を選んだのか?』と改めて気づき、自分の中にコナンの事しかなかった事を悟って頬を上気させていた

「・・・これ以上冷やかしたらホントにするわよ?」

この調子だとコナンが尻に敷かれるのは火を見るより明らかだ

「分かったわい・・・でも、哀君も女の子なんじゃから、別に恥ずかしがらんでもいいんじゃぞ、オシャレをしたいときは思いっきりすればいいんじゃから」

「(慌てて話題を変えたわね・・・)・・・ええ、分かったわ・・・」

一瞬脳裏に『苦し紛れ?それとも気にかけてくれてる?』と見えたが、別段気に留めることなくサラリと流した哀はキッチンに向かい、ベーコンとトーストを焼いてスクランブルエッグを手際よく作り、コーヒーを入れて食卓へ運んだ

「早いのう、哀君は・・・まだ少ししか経ってないのにのう・・・やっぱり女の子じゃな」

美味しそうな匂いに誘われて食卓へやってきた博士が率直な感想を零す

「自炊していればこれくらい当たり前よ、工藤君だって一人で出来てたじゃない・・・博士みたいに作れないのが特殊なのよ・・・それより、早く食べないと冷めるわよ・・・」

慌ただしく食べ始める博士、対照的に哀はすでに食べ終わり、静かに目を閉じてコーヒーに口をつけていた

時刻は8:00ちょうどになる、まだ時間があるので哀は髪を解かしておこうと思い、席を立った、その後・・・

「お〜い、入るぞ〜」

コナンがまるで自宅のようにドアを開く

「おう!おはよう博士!」

「おお、おはよう新一君、初の告白は成功したようじゃのう」

ニヤつきながら玄関に顔を出した博士が賛辞とも嫌味ともとれる口振りで挨拶を返した

「(哀から聞いたんだな・・・)ああ、そうだけど・・・///なんか文句あるのかよ?」

玄関からリビングへ向かいながら顔を少し赤くしてコナンが博士にジト目を向ける、そしてキョロキョロと周りを見渡した

「ところで哀は?」

「ああ、哀君なら洗面所にいると思うんじゃが?」

「なんだそうなのか、じゃあ予定通り8:30に出発できるな」

コナンは哀の姿が見えなかったので、まだ寝ていると思ったらしく、博士の言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろした

すると丁度そこへ哀がいつもの綺麗にウェーブのかかった髪型でリビングへ戻って来る

「あ・・・工藤君、もう来てたの?」

「ん?ああ、ついさっき来っ!・・・」

振り向きながら返事をしていたコナンだったが、哀の姿が視界に入った途端、途中で言葉を失い真っ赤になって目が釘付けになってしまう

「///なによ・・・もう、そんなに見ないでよね・・・」

「///え!?ああ、その・・・ゴメン」

一方は慌てて相手のスカートから目を逸らし、また一方は恥ずかしそうに両手の手でスカートの前を押さえている

「///まぁ、別に謝るほどのことじゃないと思うけど?・・・ところでどうしてこんなに早く来たのかしら?」

「どうしてって・・・///少しでも早く会いたかったから・・・」

「///バカ・・・時間決めたの工藤君の方なんだから、ちゃんと時間通りに来てよね・・・」

「ああ、分かった・・・次からそうするよ」

「もう二人とも用意が済んでいるんじゃったら、少し早めに出かけたらどうじゃ?」


博士が壁の時計を見ながら提案した、時計は8:10を指している

「そうだな・・・哀さえ良ければ・・・」

「私は構わないわよ・・・そうね、あと5分くらいで行くっていうのはどう?」

左手首の時計に目をやる哀

「いいぜ、じゃあそうするか」

「じゃあ私、少し用意して来るわ」

哀は足早に自室へ向かっていく

「そうだ博士、わりぃんだけど明日からこっちに移りてぇんだ」

「そりゃまた急じゃな、なにかあったのか?」

「いや別にこれと言って大きな出来事はねぇけど、一応博士の親戚の子って事になってっから何かと都合がいいんだ、それに時間が経てば経つほど奴らがオレと哀のシッポを掴みやすくなるのは明白だろ?」

「・・・なるほど、じゃから出来るだけ近くに居たほうがいいという訳じゃな」

「ああ、その方が博士も哀も今より少しは安心できるだろ?それにオレ自身も安心できるからよ・・・ダメか?」

「おお、もちろん構わんぞ、明日じゃな?それなら部屋を一つ空けて待っておるよ」


「サンキュー博士」

「いやなに、これからは同居人なんじゃから遠慮はいらんよ(新一君なら絶対に哀君を幸せにしてくれるじゃろう、よかったのう哀君・・・そして、哀君を頼んだぞ新一君)」

博士は微笑ましい笑顔を浮かべていた、その5分後、コナンは哀の手をそっと握り、二人は阿笠邸の玄関から、誰が見ても小学生にしか見えないような、はしゃいだ表情で手をつないで出て行った、そして早速哀にタクシーを呼ばされているコナンの姿もあった











「・・・」

年齢およそ60歳、長い白髪の口ひげと眉毛で顔の半分が隠れている運転手が不思議な顔をしているのを余所に、タクシーの後部座席ではいつもと変わらない会話をしている哀とコナンの姿があった、まぁ運転手にとってみれば、小学生の子供二人がちゃんとお金を払ってくれるかどうか怪しいのだから、不安になるのは当然である、しかし目の前に何万円もチラつかされては、乗せていく他ないだろう

「///あ、あのよう・・・」

コナンは熱があるのではないかというほど顔を耳まで真っ赤に染めて、何か言いたそうに一箇所を見つめていた

「なによ、さっきからチラチラ見て・・・///あっ!」

そう、哀はコナンの視線で何が言いたいのかが分かったのだ、それは哀の短すぎるスカートの端がタクシーのシートに座るときに少し折れ曲がっていた事だった、当然元々短いスカートが折れ曲がれば・・・

「///な!?///なによもう!気づいてたのなら早く言いなさいよ!エッチ!」

慌ててきちんと座りなおすが、コナンにはすでに見えてしまった後・・・なのかもしれない

「///そんな事言ったら、オレ恥ずかしくて死んじまうだろ・・・」

「///もう、バカ!許してあげないんだから・・・」

哀はプイッとコナンから顔を逸らし、窓のほうを向く、二人の顔はこれ以上赤くできるかというほど深紅に染まり、恥ずかしくて今にも頭から湯気が出そうである

「おいおい、『許さない』なんて言わないでくれよ、何でもするからよー」

コナンは流石に少し困った表情を浮かべている、そこで哀はコナンに判決を下す

「何でも?そうね・・・じゃあ、私たちが恋人同士になったってこと、みんなに宣伝してくれるかしら?」

「///ええ〜〜〜!?オレが?それこそ死ぬほど恥ずかしいじゃねぇーか!」

「言ってくれないんだったら、私、この場でタクシーを止めて今すぐ帰るわよ?」

「マジかよ・・・しょうがねぇなぁ〜・・・わぁったよ、んで?誰に言えばいいんだ?」

「そうね・・・小学校のあの子たちにはいつでも言えるから・・・西の名探偵さんと怪盗KID、それとあなたのご両親に報告してくれる?」

「ハハハ・・・(もう何反論しても無駄だな・・・)」

コナンは仕方なく自分の携帯電話を取り出す、なお、この携帯は蘭とペアで買ったものではない・・・あの携帯は妨害電波に強い特注品に替えることと気持ちにケジメをつける意味を兼ねて解約し、今はアドレスと電話番号を女では哀にしか教えていない携帯だ、女以外では平次と快斗と両親のアメリカの別荘(現在はそちらに住んでいるが)と博士だけだった、要するに自分が幼児化しているという秘密を知っていて、なおかつ心から信頼している人に該当する人たちだ

「ほら、早くかけなさいよ・・・そしたらちゃんと許してあげるわよ」

哀は天使の笑顔でコナンに向けている、コナンはこの笑顔が最大の弱点であり反論できるはずもない

「(///カ、カワイイ・・・やっぱり笑うとイイ顔してるぜ)///わぁったよ・・・じゃあまず服部からかけるから・・・」

コナンは渋々平次の携帯の番号を押して電話をかけ始めた、プルルルルル♪プルルルルル♪、コナンにとって鳴り続いてほしかった呼び出し音は二回で切れる

「・・・おう!なんや工藤!なんか用かいな」

相変わらず威勢のいい大阪弁、そして独特のアクセントで話している

「なんか用かって・・・第一声がそれかよ・・・まぁいいや、今日はちょっと報告したいことがあってよ・・・」

コナンはチラッっと哀の方を見る、哀は『早く言いなさいよ』というような眼差しを向けている

「何のことや?この前話しっとった事件の話か?」

「いや、事件のことじゃねぇんだけど・・・」

「ほんならなんや?もったいぶらんとはよ言えや」

「///実は・・・オレ、ちゃんと正式に彼女ができたんだよ」

「へぇ〜・・・ん?ちょー待て、ちゅうことは毛利の姉ちゃんに、ちっさいまんまで告白したんか?工藤もやるときはやるなぁ、ん?あ、スマン、ちょー待っといてや」


平次は勝手に保留のボタンを押し、電話を中断する

「お、おい、相手は蘭じゃ・・・なんだよ服部のやつ、勝手に決めんなよ」

「ちょっと、ちゃんと説明しなさいよ・・・勘違いしてるじゃない」

「ああ、わぁってるよ・・・」

コナンは不快そうな表情で手に持つものを睨みつけていた





こちらは電話の向こう、平次が電話を中断した理由は和葉が話しかけてきたからだった

「何やってんの?平次」

「電話や電話!見て分からんのかい、電話の途中やから、ちょー向こう行っとけや」


「そんな怒らんでもええやん・・・で?誰と電話してんの?」

「(普通電話しとるとき邪魔されたら怒るやろ・・・)工藤やけど・・・それがどないしたんや?」

「へぇ〜工藤君から掛けて来るの珍しやん、どんな話してたん?」

「ああ、自分の女作ったって自慢しとったわ」

「えぇ〜!?ほな、蘭ちゃんとうまいこといったんやな!よかった〜」

ここにも勘違いしている者がいる

「まぁ、まだなんか言いたそうやったから、興味あんのやったら電話終わった後で内容話したるさかい、オレの部屋で待っとけや」

「うん、分かった〜ほな待っとくで〜」





その頃タクシーの中の二人はじれったくてしょうがない気持ちだった

「・・・ちょっとまだなの?」

「ああ、まだ・・・ん?おい服部!遅ぇじゃねぇーか、何してたんだよ」

どうやら平次が再び電話に復帰したらしい

「ああ、スマンスマン、ちょっとヤイヤイ言うとるやつがおったんでな、ほんで?話の続きは何や?」

「だから、オレの彼女になったのは蘭じゃねぇって言いたかったんだよ」

「へぇ〜、なんや毛利の姉ちゃんやないんか・・・って!?なんやと〜!違うんか?ほんなら誰や?言うてみぃ!」

「///灰原哀ってやつだよ・・・ほら、オメーも知ってんだろ、茶髪でオレと同じくらいの背丈の・・・この前博士ん家にいたじゃねぇか」

「・・・そうやったんか、オレはてっきり毛利の姉ちゃんやと思たのに、工藤と同じ薬飲んで小さなったほうの姉ちゃんやったんか」

「そういうこと・・・」

「・・・ほんなら、毛利の姉ちゃんにはなんて言うてあるんや?」

「ああ『オレのことは忘れてくれ』って言っておいた」

「そうか・・・工藤、お前は何のためらいもなくこれでええと言い切れるんやろな?」

「ああ、それだけはハッキリ言える、オレは・・・哀のほうが好きなんだ」

言った本人より傍で聞いていた哀のほうが恥ずかしそうだ

「(工藤の心にまだ迷いがあるんやったら、完全に一人の人を好きになる事なんてできへんから心配しとったけど・・・なんや大丈夫みたいやな・・・)ふ〜ん、なんやいきなりラブラブやなぁ〜・・・せやけど大切にしたりや、相当悩んで選んだんやろ?」

「そうでもねぇさ・・・哀に出会ったときから、蘭への気持ちは徐々に消えていったからな・・・それにオレは選べる立場の人間じゃねぇよ・・・」

「左様か・・・まぁ、他の男に取られやんようにちゃんと守ったるんやで」

「んな事わぁってるよ・・・こいつだけは誰にも渡さねぇ」

コナンは哀に視線を向けながら決意を露わにしていた

「・・・でも分からへんなぁ、毛利の姉ちゃんとは全然違うタイプでいつもツーンとしとるのに、ホンマに好きなんか?」

平次は今一度コナンの本音をあぶりだす為に巧みな言葉で反発を誘う

「当たりめぇだ・・・それに哀はな、普段はポーカーフェイスでクールに装ってるけど、本当はいつも・・・家族がいない寂しさや組織から狙われている恐怖と戦ってたんだ・・・そのことは、事情を知ってたオレが・・・一番近くにいたオレが痛いほど分かってたんだ・・・だからオレは『一生こいつの傍にいて命を懸けてでも守ってやりたい』って思ったんだ(それに・・・最後の一人だった家族を・・・救ってやることができなかったから・・・)」

「(!・・・家族・・・お姉・・・ちゃん・・・)」

その言葉が耳に入った瞬間、哀の顔から今までの表情が消え、哀は俯いてシュンとなった

「(それ聞いて安心したで、工藤の決意はオレが考えてたほど脆ないわ、流石はオレのライバルやな・・・)・・・そんな歯の浮くようなセリフよう照れんと言うなぁ」


「///うっせーよ・・・用はそれだけだ」

「よっしゃ!ほなちょっと誤解早よ解かなあかんから、もう切るで〜」

「(誤解?・・・)お、おう!じゃあな、また掛けろよ!」

「ほなな〜(ホンマ、ちゃんと応援しとるからな・・・)」

その直後、ほぼ同時に通話終了ボタンが押された










電話を切った平次は真剣な表情で和葉のいる自分の部屋に向かった

「平次、遅かったやんか、何長いこと話してたん?」

「おい和葉、よ〜聞けや・・・」

「なんやの?マジメな顔して」

「さっきの話、ちょっと違うてたんや」

「さっきの話?・・・ああ、工藤君の話?どこが?」

「毛利の姉ちゃんやなかったんや、工藤の交際相手・・・」

「え!?・・・そんなアホな話・・・ほんならずっと帰りを待っとった蘭ちゃんの気持ちはどうなるん?・・・散々待たしといて・・・もう頭きた!相手はだれなん?あたしが会うて文句言うたるわ!」

どうやら和葉がこういう反応をすると平次には予想できていたようだ

「・・・止めとけ和葉」

「なんでや!蘭ちゃんは悲しむに決まってるやんか!あんだけ一生懸命我慢して、帰ってくるって信じてたのに・・・それやのに今更」

「止めとけちゅうてんのじゃ!」

平次の一喝で、和葉の勢いは完全に止まった

「・・・あいつらがお互いに納得し合うて決めたことや・・・オレ等が口出しすることやない」

ここで平次は一つだけ推論を言った、『たとえ新一が別れを望んでも、蘭がいる限りお互いに納得し合うことはありえない』・・・そう平次なりに考えたからだ、実際は少し違うのだが・・・

「でも・・・でもそんなん・・・」

「・・・それから、今度姉ちゃん等に会うてもこの話、絶対すんなや・・・理由は言わんでも分かるな・・・絶対やで」

「うん・・・分かった・・・」

「・・・よっしゃ!この話はここまでや!怒鳴った穴埋めになんかおごったるさかい、和葉、お前も朝飯付き合えや」

「・・・(きっと蘭ちゃんにも、もっと気の合う人が現れるはずや)分かった、いっぱい食べたるから覚悟せぇや平次!」

「ほな、なんぼでも食え!」

そんな戯れ合いをしつつ、二人は服部邸から大阪の街へ出かけていった・・・










電話を切り終えたコナンは『やれやれ』という表情を隠しきれないでいる

「ふぅ〜やっと終わった・・・んじゃあ次は黒羽のやつに・・・おい!?哀!どうした?」

哀は下を向いているうちに、大粒の涙を自分の手の甲に零してしまっていた

「・・・ゴメン・・・なさい・・・どうしても・・・抑え切れなくて・・・」

コナンは記憶をたどってなぜ哀が泣いているのかを理解し、自分の発言に後悔した

「バーロー何で謝るんだよ・・・悪いのはオレの方だろ・・・ゴメンな・・・あんな事言って悲しいこと、思い出させちまって・・・」

「・・・今は・・・あなたがいるから・・・大丈夫・・・でも思い出すと・・・やっぱり寂しくて・・・」

哀の声は震えている

「・・・泣きたい時は泣いていいんだぞ、哀・・・今までずっと耐えてきたんだから・・・オレなんかで良けりゃ傍にいるし・・・もう無理して強がらなくてもいいからよ・・・」

コナンが言い終えると、哀は隣に座っているコナンの胸に自分の頭をくっつけた

「少しだけ・・・ワガママ言っても・・・いい?」

「ああ・・・落ち着くまでこうしててやるから」

「・・・お姉ちゃん・・・私・・・私・・・」

哀はあの教室でのコナンの告白のときと同じ、つまり現年齢相応の雰囲気で泣いた・・・その間、コナンは優しく哀のブラウン色の髪を撫でていた、そしてコナンの服は哀の悲しく、切ない涙で薄っすらと濡れ、哀の目は徐々に赤くなっていた・・・それを先程よりさらに不思議そうな表情で聞いていた運転手の姿があったことは言うまでもない

コナンとすでに泣き止んだ哀は9:50ごろ、米花街に着いてタクシーを降りた、二人は相談した結果、快斗とコナンの両親には後で伝えるということで合意し、まず映画館に行くことになった、ここから二人の初デートが始まる・・・いや、もう始まっているのかもしれない

★感想はスカーレット様まで★

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