ゥ 三 つ の 願 い
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洋服店に入った二人は子供服売り場に足を運んだ、実際は高校生であり、他人よりもはるかに卓越した頭脳を持ったこの二人も周りから見た姿形はどこからどう見ても小学生なのでさすがに大人の服を試着することも買うこともできない
「ねぇ?どれがいいと思う?」
「え?それは哀の好みで自由に決めるといいんじゃねぇか?哀が着る服なんだからよ」
「そうだけど・・・流行の服とか、イマイチ一人じゃ分からないのよ・・・こういうの初めてだから・・・」
「あっ・・・ゴ、ゴメン・・・」
「どうして謝るのよ・・・別にあなたは何も悪い事言ってないじゃない」
「ゴメンな・・・オレ鈍いから、また・・・」
「何言ってるのよ、全然気にしてないから・・・心配しないで」
「でも・・・」
「もうそれはいいから・・・服、一緒に選んでよ、ね?」
「・・・ああ、分かった」
コナンはこれ以上哀に気を使わせてはいけないと思い、哀に従うことにする
「・・・ねぇ?これなんてどう?」
「ああ、かなりいいと思うぜ」
「・・・じゃあこっちは?」
「それも全然イケてると思うけど・・・」
「・・・あのねぇ、それじゃ何がいいか分からないじゃない」
「///んなこと言ったって・・・全部似合うんだからしょうがねぇじゃねぇか」
「///何ワケの分からないこと言ってるのよ、バカ・・・じゃあ一番似合ってると思うものを言ってみて・・・」
「う〜ん・・・難しい要求だな・・・」
コナンは周りをグルリと見渡す
「・・・あ、これなんかどうだ?」
コナンが選んだのはフード付きでワンポイントの真っ白なトレーナーだった
「・・・どうしてこれがいいと思ったの?工藤君の好み?」
「オレもこれに似た白いトレーナー持ってるからよ、ペアルックなんかいいかな?とか思ってよ、それに・・・」
「・・・それに?」
「・・・それに・・・哀にはやっぱり純白が似合うな・・・って思ってよ」
「そう?・・・私は自分の事、黒いイメージがあるけど?」
「・・・なんでだよ?個人的な好みなら口出しはしねぇけど・・・それが妙な感情からきたものだって言うんなら聞き捨てならねぇな」
コナンの顔がわずかに曇る
「・・・だって仕方ないでしょ?18年間の強制イメージカラーだったんだから・・・嫌でもそう思ってしまうのよ・・・」
「そんな先入観早く捨てちまった方がいいぜ?オレは今まで哀が不似合いな色の中にいただけだと思うな・・・いや、て言うかそうだろ」
「・・・そこまで言われるとそんな気がしないワケでも無いけど・・・」
「だろ?今まで周りが黒いヤツばっかりだったからそう思ってただけだって、それできっと自分の本心が分からなくなってただけだよ、その証拠にオメー博士の家でいつも白衣着てたじゃねぇか」
「(確かに・・・いつも別に実験をするワケでも無くただパソコンの前に座っているだけなのに・・・私、なぜか無意識のうちに白衣を着てた・・・)・・・まぁ一理あるわね」
「・・・だったら今日からは、より好きな色を身にまとうのも悪くねぇんじゃねぇの?」
コナンがここまでこだわる理由・・・それは哀の組織に居た頃の嫌な記憶を少しでも早く薄れさせてあげたい・・・少しでも早く普通の生活に慣れてほしい・・・そんな思いが込められていた
「(なんとなく工藤君の言いたい事は分かってるけど・・・)・・・誰も白が好きだなんて言ってないんだけど・・・」
「でも変な先入観のある黒よりはマシだろ?それにペアルックになるんだし・・・(でも黒もシックな感じでよかったかもな・・・)」
「勝手ね・・・でもまぁこの服だけって言うのならいいわよ」
「なんだよ、遠慮してんのか?金銭面のことなら気にしなくていいんだぞ?」
「・・・遠慮してないって言ったらウソになるけど・・・無理して買う事ないんじゃない?」
「それもそうだけど・・・」
「それに小学生が何万円も持っていたらまた怪しまれるわよ?タクシーに乗るときのこと忘れたの?」
「・・・そうだな、ここは控えめにしとくか」
結局コナンが選び、哀がOKしたこの服のみを買う事になり、その一着のみを買って二人は洋服店を後にした
12:45、洋服店にいた時間が予想より短かったので思った以上に時間が余った、混雑する時間帯を避けて昼食をとるつもりだったが特にどこも寄る所がないので、予定より早いが二人は昼食をとることにした
「で?どこに連れて行ってくれるのかしら?物知りな探偵さん?」
「父さんの知り合いの経営してる店だ、今の時間帯でも一つくらいは席が空いてるはずだ」
「あら、人脈が広いのね」
「まぁな、こういう時だけは便利だぜ」
「そこの評判は?」
「なんでも店長兼料理長の人が前に三つ星レストランのイタリア料理を担当してたみたいだ、店を持ったばかりでそんなに大きくないらしいけど、結構美味いらしいぜ」
「『らしい』?って工藤君、そこに行ったことないの?」
「ああ、父さんに『そこがいい』って聞いただけだけど?」
「全く・・・行く店のことくらい知っておいたほうがいいんじゃないの?」
哀はコナンにジト目を向ける
「大丈夫、あの味にうるせぇ推理バカがすすめてんだから間違いねぇって」
「クスクス・・・あら、推理バカって・・・工藤君も人の事言えないんじゃないかしら?」
「ハハハ・・・確かにそうかもな・・・///でもオレの中では推理よりまず第一に哀だけどよ」
「///全く・・・そんなことよく普通に言えるわね」
「ったく、可愛くねぇな〜素直に嬉しいって言えねぇのかよ」
「あら、じゃあその『可愛くないやつ』にベタ惚れして、告白した過度のロリータコンプレックスさんはどこの誰だったかしら?」
「おいおい冗談だよ、本心から可愛くねぇなんて思ったことねぇんだから(口では勝てねぇ・・・)」
「ありがと・・・でも言われなくてもとっくに分かってるわよ?そんなこと・・・だってからかっただけだもの」
「(ハハハ、オメーこうでも言わねぇと止まんねぇだろ・・・)へぇ〜・・・お?ここじゃねぇのか?」
そんな会話をしているうちに目的の店にたどり着いたらしい、とりあえず店内に入る二人
「あ、スイマセン今日は・・・ん?もしかして君達、優作君の言ってた小学生の二人組みかな?」
店長らしき人からいきなり尋ねられて戸惑う二人
「え!?・・・そうだけど?」
「あ〜やっぱり、じゃあそちらの席にどうぞ」
「・・・ねぇ?どうなってるのよ?」
哀は小声で不思議そうに尋ねる
「知らねぇよ・・・父さんが何か吹き込んだのか?」
とりあえず店長らしき人に誘導され、店の一番端の席に案内される
「ではメニューがお決まりになりましたら、お呼びください」
その人物はずっと向こうの調理場へ消えていく
「何で一番端なの?・・・それに、なんでこの時間に他のお客さんが一人もいないのよ?」
「オレに聞くなって・・・とりあえず父さんに電話してみっから」
コナンは携帯を取り出し電話を掛け始める、プルルルルル♪プルルルルル♪プルルルルル♪、呼び出し音は三回だった
「Hello.This is Kudou Yuusaku.」
出た声は英語だった、まぁ海外にいるのだから当然だが・・・
「あ、父さん?オレだよ、どうなってんだよ、この店?」
「なんだ新一か(そうか、まだ新一の電話番号を携帯に登録していなかったな・・・)店?・・・ああ、この前のお勧めの店の話か?」
優作は一瞬で記憶を引き出して返答する
「そうだけど・・・何なんだよ、何かあの店長っぽい人に言ったのか?」
「ああ、お前が行くんなら貸切にしてもらおうと思ってな、店長に『今日はテレビ撮影があるから、また今度にしてくれないか』と言って他の客には引き取ってもらうように頼んでおいたんだよ、まぁその客には悪いが店長に一肌脱いでもらったと言うわけだ、感謝しろよ?わざわざお前の為に頼んで・・・いや、正確には今お前の一番傍にいる人の為かな?」
「おいおい、何もそこまでしなくても・・・別に込んでるのはそんなに嫌いじゃねぇぜ?それに、何でオレが二人で来るって分かったんだよ?」
「何言ってるんだ新一、お前が『明後日出かけるんだけど、どこか落ち着いた感じのいい店ないか?』なんて聞いたらそのくらいわかるさ、もし小学校の友達と行くのならそんな店を選ばないだろうし、毛利さん達と一緒に行くなら、当然下の階のポアロに行くはず・・・まぁ、仮に行くとしても子供に行き先を任せたりはしないだろうからな、加えて、博士たちと行くなら大抵はコロンボに行くはずだろ?だかピーンときたんだよ、『志保さんとデートしてるときに行くんじゃないか』ってね・・・『不可能な物を除外していって残った物がどんなに信じ難くてもそれが真実』・・・ということだよ新一君、まぁ今回は信じ難くは無かったがな」
相変わらず鋭い推理力である
「///そ、それよりなんで父さんたちがオレと哀が付き合ってること知ってんだよ!?」
「え!?」
コナンと電話の内容が聞こえていた哀は驚きを隠せないでいる
「なんでって・・・博士から聞いたんだが?それにオレだけじゃなくて有紀子も知ってるぞ?」
「・・・博士のやろ〜・・・(だから急に母さんが帰ってきて哀に洋服をたくさんプレゼントしていったのか・・・)」
「(・・・読めたわ、私が告白された当日の帰ってすぐ有紀子さんに電話していた時ね・・・でもあの時は違うことを言っていたような気が・・・あ、まさか私に言いふらした事を指摘されるのが怖くて適当な理由を言ったんじゃ・・・と言うかそうとしか考えられないわね、それなら急に有紀子さんが洋服を海外から買って来てくれた事も頷けるし・・・)」
博士が二人の帰宅後に集中攻撃されることは目に見えている
「ハハハ・・・まぁ、店長にも『あまり二人の会話を聞かないでくれ』と言ってあるし『一番端の席に座らせてやってくれ』とも言ってあるから思う存分楽しみなさい、新一・・・じゃあ、仕事の途中だから切るぞ」
優作は電話を切った、しかし仕事というのはおそらくウソで『二人の邪魔をしてはいけない』と気を利かせたのだろう
「///バ、バーロー、余計なこと・・・って、切っちまった」
「///音量が大きいし、他に誰もいないから優作さんの声も丸聞こえよ・・・」
「///・・・まぁでも・・・おかげで哀と二人きりになれたし・・・ま、いっか」
「///ええ、そうね・・・お礼を言わなきゃならないかもしれないわね・・・じゃあ何にするか早く決めましょう」
「ああ、そうだな・・・なにがいい?」
決めようとメニューを取ろうとしたとき、優作によって店長と判明した人物が慌てて走ってくる
「ゴメンゴメン、優作君から電話でメニューを決められてたのを忘れていたよ、今から作りますね」
全身に白い衣服をまとい、高い帽子をかぶった人は、また走って調理場へ向かっていった
「また勝手なことを・・・」
「どんなものかしら?」
「・・・父さんのことだから、きっと母さんと相談して、ああいう料理を・・・」
「え!?分かるの?」
「一つの料理を二人で食べるとか・・・そういうのだろうな〜ハハハ・・・」
「あら、それは昼間もやったじゃない、また食べさせてあげるわよ、クスクス」
「嬉しいんだけど・・・///やっぱり恥ずかしいぜ・・・」
「・・・他に誰もいないじゃない」
「それもそうか・・・///じゃあ・・・頼んでもいいか?」
「あらあら、高校生なのにとんだ甘えんぼさんだったのね、クスクス・・・まぁいいわ、頼まれてあげるわよ」
そう言いつつも、哀はとても楽しそうである
「///・・・サンキュ・・・」
コナンは照れくさそうに料理が運ばれてくるのを心待ちにしていた
「お待たせしました〜」
運ばれてきた料理はサラダ、アイスコーヒー、そして大きな皿にのせられた海鮮パスタだった
「ハハハ、やっぱりな・・・父さんが母さんと二人でレストランに一緒に行った時こういうのよく食べたって言ってたからなぁ・・・」
「まぁいいじゃない、元々こういうのを頼むつもりだったんだから・・・」
「・・・そ、そうだよな(ハハハ、オレはそんな事考えてなかったぞ?)」
そうこう言いながら哀はフォークを取り、パスタをくるくると巻いて持ち上げた
「食べさせてほしいんでしょ?ハイ・・・(クスクス、まるで子供ね)」
「///あ・・・や、やっぱり自分で・・・」
「何よ、自分で言い出したくせに・・・」
「///・・・わぁったよ・・・じゃあ、オメーも食えよな」
「え!?それって工藤君が私に食べさせてくれるってこと?」
「そうに決まってんだろ、オレだけ恥ずかしい思いするなんて不公平だぜ」
「いいわよ」
「へ!?」
コナンは予想外の答えが返ってきたので少し驚いたようだ
「じゃあ、私も食べるから工藤君も食べるってことでいいのね?」
「あ、ああ・・・」
「ホラ、せっかく巻いたのに落ちてしまうじゃない、早く口を開けなさいよ、クスッ」
自分で言い出した事もあって引っ込みがつかなくなったコナンは渋々口を開けてパスタを口に運んでもらう、味は確かに一級品だった、しかしそれは料理人の腕だけではなく、哀に食べさせてもらったから・・・ということもあるかも・・・いや、そうに違いない
「オメー変わったよな・・・」
「え!?なにが?」
次のパスタを巻こうとしている哀に向かって、すでに一口目を飲み込んだコナンが不意に言葉を掛けた
「いや、妙な意味じゃなくて嬉しいんだよ・・・ついこの間まで他人を傷つけまいと過ぎて、自分の思いを消しちまうような性格だったのにさ・・・こんなに積極的になってくれて・・・」
「・・・工藤君が・・・あなたがいたから素直になれたのよ・・・」
「それはオレも同じだ、オレも哀の前なら『コナン』じゃなくて『新一』になれる・・・たとえオレの正体を知っていても、幼児化した者同士にしか分かりえない苦労は完全には理解し難いよな、でも哀になら全部・・・何も包み隠さずにすべて話せるんだ、必ず理解してもらえるって信頼してるからよ」
「私は・・・分からない・・・確かにあなたの前では素直にはなれる・・・でも素直になってすべてをさらけ出すという事は私の中の『宮野志保』の一面も見せるという事・・・『宮野志保』は、薬で『工藤新一』を殺した・・・私は『宮野志保』になってもいいのかしら?・・・」
「そういう一面も含めて今の哀があるんだからいいに決まってんじゃねぇか・・・(また悔やんでる・・・これは一度理論的に納得させた方が・・・)確かに哀の言ったことも一理あるかもしれねぇ・・・でも『工藤新一』死んだわけじゃねぇよ、ただ肉体という概念が消えただけだ、今もちゃんと一部の人間の心の中で行き続けてる、それにいつか体の方も元に戻る日が来るかも知れねぇしな・・・あと・・・これだけは忘れないで哀の胸に刻んでおいてくれ・・・」
二人はほぼ同時に俯いていた顔を上げ、目線をあわせた
「今ここで世界で一番幸せな時間を過ごしている『江戸川コナン』と『灰原哀』の生みの親であり、『江戸川コナン』と『灰原哀』を導いてめぐり会わせてくれたのは・・・紛れもない『宮野志保』だってことをな」
「・・・分かったわ・・・その言葉、しっかり覚えておくわ・・・『工藤新一』君」
「そうしてくれよな、『宮野志保』さん」
二人の顔に笑顔がこぼれた、そしてそのあと二人はお互いに何度か顔を赤くしたりしつつ、すべての料理を残さず完食し、店長さんに心から御礼をして店を去って行った、もちろん腕を組んで・・・
コナンはタクシー乗り場に向かっているのだが哀はどこに行くのか知らないまま歩いている、そんな道中、今度は哀がふと話し始めた
「・・・私って幸せね・・・」
「ん?何だよ急に?」
「え?・・・別にたいしたことじゃないんだけど・・・ちょっと組織にいた頃の事、思い出していたのよ・・・」
「・・・」
コナンはまた哀が妙なことを考えていないか心配だった
「あの頃の自分はここまで幸せになれるなんて、夢にも思ってなかったでしょうね・・・」
「どういうことだよ?」
心配そうにコナンが尋ねる
「あの頃は毎日部屋にこもって研究研究・・・本当に嫌だった・・・辛かった・・・まるで見えない縄でキツく縛られているような感じがして苦しかった・・・普通の高校生を何度も羨んだ・・・でも今は違う・・・外に出て思いっきり空気が吸える・・・好きな洋服も着れて、好きなことができる・・・そして、普通の人と同じように友達を作って、恋して、思いを伝えて・・・一番大好きな人の傍にいて甘え事ができる・・・これ以上の幸せなんてない・・・これが私の夢見てた自由の世界・・・」
「・・・ならもっと楽しもうぜ」
「え!?」
「世の中夢が叶う人なんて、あんまりいねぇんだから、もっと楽しんだらどうだ?できればオレと一緒によ・・・」
「あなたが一緒じゃないと私の一番の幸せが成り立たないのよ」
「オレも一緒だぜ・・・哀」
コナンは心の中でホッとしていた、哀は前よりずっと前向きに考えるようになってきている、そう思った
哀は自由になった、もう囚われの身ではない、そして自由以外にも大切な、大切な何かを手に入れていた・・・
1:30、二人は最初にタクシーから降りたところに戻ってきた
「んじゃ帰るけど、オメーもう寄るとこねぇか?」
「ハァ?約束は一日中でしょう?もう帰るなんてダメよ」
「・・・でもあんまり出歩くと哀が疲れるんじゃないかって思ってな」
「私は大丈夫、疲れてなんかないわ・・・それよりこれから先の予定、立ててこなかったの?」
「ああ・・・ゴメンな、無計画で・・・」
「・・・別に謝ることじゃないわよ・・・そういえば私、丁度行きたいところがあったんだけど・・・」
「ん?どこだ?どこでも連れてってやるから言ってみろよ」
「あ!?・・・やっぱりいいわ・・・」
何かを言いかけた哀だったが、何かを感づいたのか途中で言うのをやめてしまった
「おい、どこなんだよ?時間ならかなりあるから心配いらねぇんだぜ?」
「ゴメンなさい・・・あなたに言うわけにはいかないわ・・・」
哀は悲しそうな目をしていた
「・・・オレには言えないことなのか?・・・」
「ち、違うの、そういうことじゃなくて・・・」
多少の焦りを見せながら哀が弁解する
「じゃあどういう事なんだよ、オレたち、恋人同士だろ?・・・いや、それ以前にお互いの事を一番よく理解しあってる相手同士じゃねぇか・・・今のオレたちの間で、隠し事なんてなしだぜ・・・」
「・・・隠し事なんかじゃないの・・・ただ、工藤君だからこそ言えないのよ・・・」
「哀・・・オレはまだまだ未熟で、無鉄砲で、抜けてるところもあって、頼りねぇかもしれねぇ・・・でも、もうちっとオレを信じて・・・頼ってくれねぇか?・・・オレは哀のすべてを知りたい、楽しかった事も悲しかった事も・・・そしてその上で哀を守りたい・・・」
「・・・あなたを頼りないなんて全然思ってない・・・それにあなたの気持ちは胸がいっぱいになるくらい嬉しい・・・それでもあなたにとってあの場所は・・・」
「・・・オレにとって?・・・あの場所?」
コナンが不思議そうに聞き返すと、哀はハッとして口を右手で押さえた
「・・・(『オレにとってのある場所』ってことは他の人には平凡な場所だが、オレにとっては何か特別な場所ってことか・・・)」
コナンは黙って考え始めた
「ダメ!お願い、考えないで!今の言葉は忘れて!・・・分かったわ、帰りましょ、もうここで終わってあげてもいいから」
哀は腕を引いてタクシー乗り場のほうへコナンを連れて行こうとする、しかしコナンは眼光を鋭くしたまま動こうとしない
「・・・帰りたいって言ってるのに・・・」
哀はコナンの左腕を両手でつかんだまま俯いて止まってしまった
「・・・トロピカルランド・・・」
「!?」
言葉に反応して哀がコナンの顔を見上げた
「その反応・・・やっぱりそこに行きたかったのか・・・」
「・・・考えないでって言ったのに・・・」
「探偵ナメんなよ・・・デートの時恋人同士がこの辺りで行きたがるような所で、オレにとって特別な場所であり、なおかつ、哀が後ろめたい様な所といえば・・・」
「だってあそこは・・・あなたが多くの物を失った場所なのに・・・そんな所に私が行きたいなんて言えるわけないじゃない・・・」
哀はコナンの左肩に自分の顔を押し付けて泣き始めてしまう、コナンは自分の服が世界で一番大切な人の涙で濡れていくのが分かった
「まだそんなこと言ってるのかよ・・・じゃあオレの過去の事が関係ねぇなら、哀自身は行きたいんだろ?・・・今はそんなこと考えたくてもいいじゃねぇか・・・」
哀はキョトンとした顔で再びコナンの顔を見た、コナンは正面に向き直り、哀をギュッと抱きしめた
「哀・・・一つオレの勝手なワガママ、聞いてくれねぇか・・・」
「・・・なに?言ってみて・・・」
「・・・オレの事で涙を流すのはできるだけ止めてほしいんだよ・・・辛いことや悲しいことで涙を無理に堪えるのはよくねぇと思う、けどオレにとって自分の事で哀を泣かせてしまう事は、マシンガンで全身を打ち抜かれるよりこたえるんだ・・・心が痛くなる・・・いや、もう痛いってもんじゃねぇんだ・・・」
「・・・分かったわ、あなたを悲しませないようにできるだけ泣かないようにするわ・・・」
グッと涙を堪えて涙を払う哀の声はまだ震えている
「・・・オレもできるだけ哀を泣かせないように努力する・・・可能な限り・・・」
「・・・私、これから後ろめたいことがなくなるように、行かなければならない所があるの・・・」
「ああ、オレもあの場所の印象を哀との楽しい思い出で塗りかえたい・・・一緒に行ってくれるか?」
「ええ、喜んで・・・」
コナンは哀が嫌がっていないのを確認すると、そっと手を引いて歩き始めた、3分後、二人はタクシーに乗って目的の場所である『トロピカルランド』へ向かって行った、誰もがうらやむような、甘く、楽しい時間を過ごすために・・・
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